タイヤ開発は相反条件をバランスさせる歴史だ
横浜ゴムのフューチャースポーツタイヤコンセプトは、内部の構造体がタイヤ剛性を変化させる
住友ゴムのアクティブトレッドは濡れると柔らかくなる特性を持つ(右側のゴム)

 路面状態などに応じて性能が変わるタイヤの開発をタイヤメーカー各社が進めている。横浜ゴムはタイヤ内部に網目状の構造体を組み込み、サスペンションのように剛性を変化させる技術を構想中だ。住友ゴム工業は、濡れた路面や氷上で柔らかくなる新素材を用いた「アクティブトレッド」技術を2024年に実用化する。グリップ(摩擦)力と転がり抵抗、乗り心地と操縦安定性などといったタイヤ開発の相反条件を新たな技術で乗り越える試みだ。

 横浜ゴムがタイヤ内部に組み込んだ「剛性調整スタビライザー」は、特殊な複合材料でつくられ、通電することで固くなる。旋回中は外側2輪の剛性を上げ、より安定して走れるようにできるほか、先進運転支援システム(ADAS)やセンサーと連動し、未舗装路などでは乗り心地を向上させたり、側面衝突の直前に片側の車高を瞬時に上げたりする機能も構想している。

 実用化には同社だけでなく、自動車メーカーや構造体の素材メーカー、サスペンションメーカーとの協業が欠かせないが、部品としてのタイヤの可能性を大きく広げる技術だ。

 住友ゴムは、接地面の性質が変わるアクティブトレッド技術の開発に取り組む。水に触れたり、低温になったりすることで柔らかくなるゴムだ。

 一般に濡れた路面にできた水膜は、タイヤの排水性を高めて取り除く。氷上ではゴム自体が硬化し、グリップ力を低下させていた。こうした特性を逆手に取り、水分と低温環境をきっかけにゴムの分子結合が離れ、柔らかくなることでグリップが上がるタイヤを実現した。

 「まるで魔法のタイヤだ」。山本悟社長は構想を聞かされた時にそう感じたという。早速、来秋発売予定の全天候型タイヤに一部技術を投入することにした。さまざまな環境下で走るカーシェアリング車両や、高度自動運転車の普及もにらんで今後も開発を続けていく。

 タイヤ開発は、グリップと転がり抵抗など、冬タイヤを合わせると100以上もの相反条件を巧みにバランスさせる歴史の積み重ねだった。CASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)に象徴されるように、自動車に求められる価値が多様化する中、タイヤメーカー各社も新たな発想で、常識を打ち破る価値を生み出そうと開発を続けている。(中村 俊甫)