これはいくつもの論点があり、難しく深い問題だ。こうすればいいとすぐ最善の答えが見つかるような問題ではない。その上で、あえていくつか話をすると、ルールを決めた政府側の問題が大きい。

 幼児置き去り防止装置の基準について、2022年末に政府はきちんとガイドラインの基準をまとめた。この装置はいろんな部品を使うが、採用する部品全部についてガイドラインの基準をクリアするのが条件だということを文書に盛り込むなど明確にするべきだった。

 今回は、置き去り防止装置を造ったある会社が採用した一部の部品について、その部品メーカーの公表データでみると、ガイドラインの基準を下回っていた。「それでも自分たちで装置全体の稼働テストをしてみて問題がなければそれでよい」という趣旨の判断を政府はした。

 実際にどれだけ安全性に影響するかどうかは別にして、分かりにくいし、不信感を持つ人もいるだろう。初めから、個々の部品全部について、ガイドラインクリアが条件とすれば明確だった。

 あと、今回は、幼児置き去り防止装置を造った会社が、検査データを文書でまとめて、国土交通省所管法人が「原則書面審査」で審査した。合格すると政府認定として内閣府(現在はこども家庭庁)のホームページに掲載される。安全性を考えると、書面審査だけではなく、第三者が実証実験を行うのが望ましい。造った人が検査(テスト)をしても意味がない。

 今の社会のシステムは、役所も民間も「一応ルールに定められた手順を踏んでいます」と、やったふりをして成り立っている。各分野のプロは、当たり前になっていることは手抜きする。手抜きするから、コストや時間など制限がある中で、何とか世の中がまわっている。みな嘘はついていないが、実際に何か事故がおきると結果的に嘘をついていたことになる。大事故の多くの原因はもともとの仕組みや運営方法にある。航空機の世界では、大事故は「組織事故」であることは当たり前になっている。また「あり得ないこと」「考えてもみないこと」が時々起きるのが世の中だ。

 3歳の子どもの視点で考えることも重要だ。3歳の子どもが車の中に置き去りになった場合、冷静に考えて立ち回ることはできないものだ。実は知人の協力を得て、自分も車の中に置き去りにされる体験をしてみたことがある。何もできず、恐ろしい事態であることは分かった。今後もこの問題については対策や改善をしていかなくてはならない。

〈プロフィル〉はたむら・ようたろう 東大工学部卒、同大学院修士課程修了、工学博士。政府の東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会委員長、消費者庁・消費者安全調査委員会委員長などを歴任。82歳。