国土の広いインドでのEV化は時間がかかりそうだ

 スズキが2030年までの四輪電動化シナリオを示した。他社と同様、ハイブリッド車(HV)や電気自動車(EV)の品ぞろえを増やすが、特徴的なのは圧縮天然ガス(CNG)や合成燃料の利用拡大を見込んでいることだ。スズキが得意とする商品セグメントや市場に合わせ、収益とカーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)を両立させる戦略だ。

 21年6月に鈴木修前会長が相談役に退いてからおよそ1年半。「新体制で精査してきた計画がまとまった」(鈴木俊宏社長)として、スズキが公表した成長戦略では、今後7年間で研究開発費と設備投資に約4・5兆円を投じてカーボンニュートラルを加速する方針が示された。

 このうち電動化関連の投資額は約2兆円。22~30年までの8年間で8兆円を投じるトヨタ自動車と比較した場合、年間投資額は3分の1程度だが、売上高がトヨタの9分の1であることを考えれば、トヨタ以上に積極的な電動化投資とも言える。これまでEVシフトに慎重だったスズキだが、売上高を現在の2倍の7兆円に増やしながら投資を拡大し、EVにも本腰を入れる。

 ただ、鈴木社長は26日の記者会見で「カーボンニュートラルは適所適材で進めていくことが必要だ」と繰り返した。EVシフトへの投資は進めるが「電池の価格が思った以上に下がらない。充電網も足りない」と課題も顕在化しつつあるからだ。

 象徴的なのが主力市場のインドだ。同国政府は30年に新車(乗用車)販売の3割をEVにしたい考えだが、約半分のシェアを握るスズキの計画は30年時点で15%にとどまる。その代わり、CNGやバイオガス、エタノール混合燃料を活用する。

 石油資源に乏しいインドはもともと排ガス対策としてCNG車を推奨し、スズキも新車販売の2割以上をCNG車が占める。30年に向けて車種を増やす一方、牛糞由来のバイオガスも活用していく。24年からはインドの研究機関と実証も始める予定だ。鈴木社長は「10頭の1日の牛糞で1台のCNG車が1日走行できるが、その牛がインドには約3億頭もいる」と期待する。

 政府目標はともかく、国土の広いインドでEVが主流になるには相当の時間がかかる。スズキは石油や電力、ガスを組み合わせた「全方位戦略」で現地販売車のカーボンニュートラルを進める。