問われる的確な経営判断

 グローバルで事業を展開する自動車メーカーにとっては世界情勢の変化や各国・地域の規制強化への対応も重要課題となっている。特に22年は地政学リスクへの対応に迫られた。

 ロシア軍によるウクライナ侵攻を受け、トヨタやマツダ、日産自動車などロシアに生産拠点を持つ日本のメーカーが相次いで事業撤退を決めた。各社とも世界生産に占めるロシアの比率は低く、業績への影響は限定的だったが、有事の際の経営判断の重要性が改めて問われることとなった。

 中国事業もリスクをはらむ。22年11月には「ゼロコロナ」政策に伴う外出制限で社員が出社できなくなり、ホンダなどが現地工場の稼働停止や生産調整を余儀なくされた。中国政府は抗議活動を受け、一部の都市でロックダウン(都市封鎖)を解除するなどゼロコロナ政策は緩和に向かっているが、物流が停滞するなど予断を許さない状況が続く。中国を経由しない部品調達への切り替えや中国で滞留する部品の日本への早期輸送などリスク回避の対策が重要となりそうだ。

 一方で、中国の生産拠点を活用する動きも顕在化した。ホンダは現地合弁工場で生産する上級ミニバン「オデッセイ」を逆輸入し、23年度に日本で発売する方針だ。日本の自動車メーカーが中国で生産した車を輸入して販売するのは初めて。今後は従来以上にグローバルの生産拠点を有効活用する動きが広がる可能性もある。

 米国では、北米で生産された電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHV)にのみ補助金を支給する「インフレ抑制法」の適用が23年に始まる。日本車は現時点で大半が対象外で、日本政府が米政府に申し入れている同法の修正が見送られれば、米国戦略を見直す必要も出てきそうだ。

 欧州では22年11月に欧州連合(EU)の新たな排ガス規制案「ユーロ7」が公表された。二酸化炭素(CO2)排出基準の厳格化とともに、タイヤやブレーキからの粉じんも規制対象に加わった。適用は25年から乗用車などで始まる見通しだが、今後はEVなどでも規制対応が必要となる。

 23年は電動車シフトが一段と強まりそうだ。トヨタと日産、ホンダが電動化戦略を表明したのに続き、マツダも22年11月に、30年までに累計1兆5千億円を投じる計画を発表した。「この3年間で本格的な電動化時代に対応するための技術開発に取り組む」(丸本明社長)方針で、地元広島の部品メーカーなどとも協業しサプライチェーンを強靭化する。

 自動車メーカーが電動化戦略を強化するのは、世界的に想定以上のペースで電動化が進んでいるためだ。日本政府が掲げる50年のカーボンニュートラル実現に向け、メーカー各社は電動化を加速する方針だが、現時点で車種を絞り込んでいない。EVやPHV、燃料電池車(FCV)、水素エンジン車、カーボンニュートラル燃料も含めて多様な選択肢で対応する考えだ。

 日本自動車工業会(自工会、豊田章男会長)が22年にまとめた50年のカーボンニュートラルに向けたシナリオ分析では、EVに特化しない多様な選択肢でもIPCC(気候変動に関する政府間パネル)が求めるCO2排出量削減目標を達成する可能性があることを科学的に立証した。自工会は分析結果を国際会議の場などで示すとともに、23年5月に開催されるG7広島サミットでも「日本らしいカーボンニュートラルの道筋への理解を獲得する」(永塚誠一副会長)方針だ。