「GX実行会議」に臨む岸田文雄首相

 今年は政府のGX(グリーントランスフォーメーション)政策が加速する一年になりそうだ。企業が排出する二酸化炭素(CO2)を自主的に取引する「GXリーグ」がスタートし、さらにその先に導入を予定する「炭素賦課金制度」などカーボンプライシング(CP)の下地づくりに取りかかる。自動車産業の脱炭素を実現するには、今後10年で電気自動車(EV)関連などで34兆円規模の投資が必要と見込んでおり、官民が一体となって電動化社会の実現を目指す。

 昨夏に政府が設置した脱炭素への道筋をつけるための新しい会議体「GX実行会議」では、脱炭素政策全体で、今後10年間の官民総額で150兆円規模の投資が必要との試算が示された。これは約140兆円規模のGX投資計画を20年に公表した欧州連合(EU)を上回る規模となる。

 150兆円のうち、自動車分野では、乗用車および商用車の電動化に約15兆円、電池分野に約7兆円、充電インフラ整備に約1兆円など、合計約34兆円の投資を見込む。

 年額換算では3兆4千億円になる計算だ。官民の内訳は公表していないが、民間投資を引き出すために、政府による投資支援を先行させる。新たな国債「GX経済移行債(仮称)」を発行し、まずは20兆円規模の資金を調達し財源にしていく考えだ。

 炭素に値付けし排出を抑制するCPにも本格的に取り組んでいく。企業が設定したCO2排出削減目標を国が評価するGXリーグを今年から開始する。基本構想は、「50年カーボンニュートラル(温室効果ガス実質排出ゼロ)実現」を前提に、30年度のCO2削減目標の設定と、それに対する達成状況の公表を企業に求めるもの。賛同企業の30年度のCO2削減目標では、国が掲げる「13年度比46%減」より野心的な目標を求め、目標未達時はカーボンクレジット市場を通じた自主的な排出量取引などで補う仕組みとする。440社以上が参加する見込みで、自動車業界からはトヨタ自動車やホンダといった自動車メーカーやデンソー、日本製鉄といった主要部品メーカーが名を連ねる。

 GXリーグは自主的な枠組みから始めるが、28年度頃からは石油元売りなど化石燃料の輸入事業者に対し、排出したCO2の量に応じて賦課金を課すCP制度を開始。当初の負担は低くし、段階的に引き上げていくことで一定の拘束力を持たせる。賦課金と並行する形で製造業などCO2排出が多い特定の企業で「排出量取引制度」も導入し、より多様な領域で取り組みを促していく。CPは、GX経済移行債の償還財源として活用する想定だ。

 官民が一体となって投資を促していく体制を整え、「50年カーボンニュートラル」実現に向けた道筋をつける。