商用車の脱炭素化はEVだけでは対応が難しく、水素など他のエネルギー源の活用が必要になると考えられる
CJPTはFC小型トラックを2023年1月以降に市場導入する予定。福島と東京で行う社会実装プロジェクトで活用する
日野自動車が2022年6月に発売した新型小型EVトラック「デュトロZ EV」
トヨタ自動車のFCバス「ソラ」

 2050年のカーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)実現を目指して、官民連携による商用車の電動化戦略が着々と動き始めている。政府は23年度予算案で商用車の電動車購入補助などを手厚くした。商用車は乗用車と比べて用途、車両の大きさ、走行距離などがさまざまで、脱炭素化の推進にはそれぞれに適した動力源の使い分けが求められる。実現に向けて自動車だけでなく幅広い業界・企業が連携して取り組んでいく必要がある。

 政府は21年6月、経済と環境の好循環を目指す産業政策「グリーン成長戦略」を見直して、商用車の脱炭素化に向けた目標を盛り込んだ。この時、乗用車の新車販売で35年までに電動車100%を目指すことも取り決めた。

 8㌧以下の小型商用車は30年までに新車販売で電動車20~30%、40年までに電動車と合成燃料などの脱炭素燃料の利用に適した車両で合わせて100%を目指す。車両の購入やインフラ整備の促進などの包括的措置も行う。

 8㌧超の大型商用車は、貨物・旅客事業などの商用用途に適した電動車の開発・利用促進に向けた技術実証を進めつつ、20年代に5千台の先行導入を目指す。水素や合成燃料などの価格低減に向けた技術開発・普及の取り組みを踏まえて、30年までに40年の電動車普及目標を設定する。

 日本の自動車全体における二酸化炭素(CO2)排出量の約2割を占める運輸部門の脱炭素化は避けて通れない。商用車の電動化と普及促進は、社会課題を解決する上でも重要な取り組みの一つとなる。

 近年、物流事業が電気自動車(EV)を配達用車両に導入する事例が相次いでいる。カーボンニュートラル実現に向けた狙いに加えて、EVはガソリン車と比べて燃料費(電気代)や整備費用など維持費を節約できる点が多いことも理由にある。「維持費を含む総コストで現在使用するガソリン車の経費を下回る」(大手物流企業)との見通しだ。

 ヤマト運輸は22年7月、量産型小型商用電気トラック(EVトラック)を500台導入すると発表。同年8月から関東、中部、関西地区を中心に順次導入している。佐川急便は21年4月にベンチャー企業と共同で企画・開発したEVの試作車を発表し、22年9月から首都圏など都市部で順次導入している。また、SBSホールディングスでも21年10月、ベンチャー企業のEVトラックをラストワンマイル事業で導入することを決めたと発表した。

 トヨタ自動車、いすゞ自動車、ダイハツ工業、スズキが参画する商用車事業の共同出資会社「コマーシャル・ジャパン・パートナーシップ・テクノロジーズ(CJPT)は、カーボンニュートラル実現に向けて電動化と物流効率化を柱に取り組みを進めている。

 同社は、大型燃料電池(FC)トラックから小型EVトラック・バンまで、商用電動車普及に向けた社会実装を23年1月から29年度末まで計画。大型FCトラックを東北・関東・関西の幹線輸送で、小型FCトラックを福島県と東京都で、小型EVトラック・バンを東京都でそれぞれ運行する。商用事業に「CASE」技術を組み合わせてカーボンニュートラル実現と輸送業界が抱える課題の解決を目指す。

 政府も、商用車の電動化戦略を推し進めるため、技術開発支援や車両購入補助などさまざま施策を打ち出している。それらと合わせて、輸送事業者の脱炭素化の取り組みを実施する際の目安となる判断基準の策定を進めている。22年5月の改正省エネ法で輸送事業者など特定事業者に対する非化石エネ転換に向けた取り組みが新たに求められることになったためだ。

 国土交通省では22年11月に「第3回グリーン社会小委員会」を開き、輸送事業者における判断基準案(表)を検討した。50年カーボンニュートラル実現に向けた政府目標や技術開発・供給インフラの整備状況などを踏まえ、政府が事業者の目標設定の目安となる数値をモードごとに定めたもの。政府が定めた目標は、今後の技術開発動向や普及状況などを踏まえて随時見直す。