スバルラボ

 機械工学が主流の自動車産業で、IT関連分野の重要度が増しており、自動車メーカーも従業員の働き方を含めて対応に迫られている。スバルは昨年12月、先進技術分野の開発と技術者確保を目的に、AI(人工知能)開発拠点「スバルラボ」を東京都渋谷区に開設した。先進運転支援システムの開発に携わってきた田村悠一郎さんは、ラボ開設と同時に群馬製作所からの異動を命じられた一人。AIなどを活用するラボの開発スタイルは従来と異なるものの、先進技術を活用したスバル車の安全性向上や、働きやすい職場環境の両面を実感している。

 ラボは約50人規模と小さい所帯だが、近隣にはグーグルの日本法人のビルもある渋谷に開設した。IT企業が集積するロケーションに拠点を置くことで、ITやAIに強い人材を確保するのが狙いだ。

 ラボでは、働き方も同社の既存の開発部門と異なる。スバルの開発部門は従来、エンジニアが大部屋に集まって、すり合わせながら研究開発に取り組む。AI開発に特化したラボでは、6つのスペースを備えており、少人数の技術者が集中できる環境を整えた。他の技術者と協力する場合はミーティングルーム、共有ラウンジなど、10人程度が集まって短期間、集中して取り組む。

 2008年からアイサイト開発に携わってきた田村さんは、群馬製作所からスバルラボに異動してきたエンジニアの一人だ。コロナ禍で在宅勤務が推奨されるようになり、ラボへの出社率は20~30%程度だが、ラボを拠点とするようになって働き方は大きく変化したという。

 個人の力量が重視されるほか、協力する場合も10人程度のチームで開発するスタイルは「一つのプロダクトを進めるのにちょうどいい」規模と評価する。ラボ内にある部屋の収容人数は最大でも10人程度。ワンフロアに各分野の技術チームが集まっていた群馬製作所と比べて作業に集中できるという。ラボには畳敷きのスペースも用意してある。「疲れている時に昼寝すると、午後のパフォーマンスが上がる」という。先進技術の研究開発では独創的な発想力も求められる。作業に没頭するための「集中ルーム」も備えている。

 ラボは、渋谷に拠点を構えたことから積極的にITに強い外部の人材確保を図っている。AIに強いエンジニアに加え、ネットワーク環境の構築を専門とするエンジニアも獲得した。AI学習用のマシンセットアップをはじめ、車両試験機器とラボとの間の通信環境も構築した。試験車両で処理する機器と同じものをラボに用意し、機器の操作やデータの確認をラボや自宅でもできるようにしたという。

 電動化や自動運転などによって自動車は大きく変わろうとしており、これに出遅れると存続も危ぶまれることから、自動車メーカーも対応を急ぐ。田村さんは「変わらないといけない時期、自分が持っている過去の専門知識に固執してしまうとうまく変われない」と、過去の成功体験がイノベーションの阻害要因となることを懸念する。その意味からも従来の開発スタイルと大きく異なるラボでのやり方は、開発スピードアップや機能の先進化に寄与することが期待される。

 ラボでは当面、車載ステレオカメラの認識能力にAIを組み合わせた技術の実現を目指している。田村さんは、ラボに集まるさまざまな専門分野のエンジニアと連携しながらトライ&エラーを繰り返し、早期の先進運転支援システムへのAI実装を目指す。

 2児の父である田村さんは現在、育児のために時短勤務中だ。新型コロナウイルスの感染が拡大して以降に開設したラボは当初から、リモートでの開発業務への従事も想定してきただけに、研究開発に遅れもなく、在宅勤務を有効活用できている。また「子どもを保育園に送りにきているのは6~7割がお父さん」で、休日に子ども同士遊ばせることを約束する〝パパ友〟もできたという。仕事と育児を両立するライフワークバランスもラボがもたらした成果の一つだ。

 たむら・ゆういちろう 2006年4月入社。08年から群馬製作所でアイサイトのステレオカメラの画像認識を担当。20年12月からスバルラボで勤務。ADAS開発部AI R&D課 AD1担当。子供は2人で小学生1年生と保育園年少組。1982年2月24日生まれの39歳。