新型コロナとニューノーマルを踏まえたレイアウト設計

 スバルが東京都渋谷区に新設した人工知能(AI)の開発拠点「スバルラボ」が1日、稼働した。独自の運転支援システム「アイサイト」の機能向上のために組み込むAIの開発を行う。渋谷駅はスバル本社がある恵比寿駅からJR山手線でわずか1駅の距離だが、IT(情報技術)企業や人材が集まる渋谷にあえて拠点を設け、優秀な人材を確保することでアイサイトの性能を引き上げる狙いだ。

 野村不動産展開するテナントビル「H1O(エイチワンオー)渋谷三丁目」のワンフロアに設置した。渋谷駅は「100年に1度の再開発」(野村不動産担当者)と言われており、米IT系企業大手・グーグルの日本法人が昨年10月に渋谷にオフィスを開設したほか、スタートアップも含めたIT系企業が多く集まっている。スバルは「IT企業を渡り歩く人材に対等に見てもらいたい」(齋藤徹スバルラボ副所長)との思いからAI開発拠点として渋谷の立地を選んだ。

 オフィスは6つの個室スペースにミーティングルーム、共有ラウンジなどを有する。新型コロナウイルス感染防止とニューノーマル(新常態)を踏まえ、飛沫感染を防ぐために机を窓や壁に向いて設置し、各部屋で密になりにくいレイアウト設計を導入した。リモートワークとの併用を前提に、各部屋に大型モニターを設置することでウェブ会議が素早くできる環境を整えた。

 オフィス開設に伴い、先進安全設計部AI R&D課を新設。スタッフは東京事業所(東京都三鷹市)と群馬製作所(群馬県太田市)から異動する。AIの活用は車両設計や生産技術などさまざまな領域で進むが、同オフィスではアイサイトに活用するAI開発に集中する。

 スバルではアイサイトのステレオカメラの認識能力にAIの判断能力を組み合わせた技術を2020年代後半までに実現する方針を掲げている。AIによる走行領域の検出とステレオ認識を融合した画像の「セグメンテーション技術」などを確立し、認識と判断能力を高めることでさまざまな条件下においても安全性を高める考えだ。

 スバルラボ所長で先進安全設計部の柴田英司担当部長は、アイサイトにAIを組み合わせる狙いとして「スバルはステレオカメラで前の空間をすべて立体に捉えているのが強み。(AIによって画像を)意味付けし、正確な推論を導くことだ」と話す。また「ディープラーニングを先行して行っているメーカーは多いが、それと精度の高いステレオカメラを組み合わせているのはまだ1社もない」と、AI開発への意欲を見せる。

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 齋藤副所長は「自分のスキルに自信があって企業を渡り歩いている人材にとって、これまではスバルが選択肢になかなか入らなかった」と漏らす。新拠点の規模は約50人を想定するが、立ち上げはその半数程度のスタッフでスタートし、渋谷の地の利を生かして残りを新規採用することで「自動車開発をよくわかっているエンジニアとIT系企業にいた人材が刺激し合ってほしい」と齋藤副所長は話す。次世代アイサイトの進化は優秀なIT系人材の確保が鍵を握る。