中国自動車産業の実情は―。中国国内メーカーの電動車開発や新エネルギー車(NEV)の市場動向、脱炭素への見通しなどについて、アジア太平洋地域のパワートレイン予測を担当するトニー・ワン氏に聞いた。
(吉田 裕信)
―中国の燃費規制とNEVインセンティブの状況は
「まず中国のNEVインセンティブの概要を確認しておきたい。これまで通常時に施行されてきたのは、政府による購入補助金と取得税の軽減、ナンバープレートの無料交付、ラッシュアワー時の高速道路レーン通行権、これら4項目を主とするパッケージで、現在はCOVID―19の影響を受けて補助金制度を2022年末まで引き延ばす施策がとられている」
「燃費規制は21年から25年までの〝フェーズ5〟の段階にあり、乗用車の燃費目標はWLTCテストサイクルにおいて100㌔㍍走行当たり4・6㍑以下に設定されている。中国のNEV開発を推進する上で、短期的には先のインセンティブが機能し、補助金が撤廃された後、長期的には今後ますます厳しくなる燃費規制とNEVクレジット(自動車メーカーなどに対して、ある比率以上のNEVの販売を課す制度)規制が、自動車メーカーの電動化に拍車をかけ、NEVの市場成長をさらに促すことになる」
―NEV市場の見通しは
「バッテリー電気自動車(BEV)とプラグインハイブリッド車(PHV)は、コンプライアンス達成に向けて重要な解決策の一つとなり得るが、BEVのほうがより大きな市場規模をつくることが予想される。中国の自動車メーカーは電動化の取り組みとしてBEVに重点を置く傾向が強まっており、専用のプラットフォーム開発に巨額の投資を行い、この先数年間で多くのBEVを市場投入する計画を明らかにしている」
「需要の観点では、タクシーやカーシェア、ライドヘイリングといった配車サービスなどのフリート市場において、政府はBEVの採用を明確に推奨しており、個人需要についても充電コストが給油に比べてはるかに安いBEVを好むユーザーが多い」
「特にナンバープレートの交付制限都市では将来的に、無料交付の対象からPHVが外されBEVのみとなる公算が大きく、これがBEVシフト加速の要因になると考えられる。実際に上海市は今年初め、PHVを23年から無料交付の適用外にすると発表した。政府もこの変更を検討するようになれば、より多くの消費者をBEVに向かわせることになる」
「また、バッテリー主要コンポーネントのサプライヤーも、自動車メーカーとともにバッテリー性能の向上とコスト削減に努めており、大幅な低価格化が進むことでBEVが一層有力な選択候補となる」
―中国自動車メーカーのBEV開発の動きは
「政府のNEV補助に刺激され、多くの国内メーカーが従来のICE(内燃機関)車両プラットフォームをベースにBEVを開発し、市場に参入した。現在はBEV専用またはマルチエンジン・プラットフォームに移行し、さらには既存メーカーのほかNIOなどのスタートアップ企業もBEVを発売している」
「今後は合弁企業のBEV投入が増加し、国内メーカー車の市場シェアは若干低下する見通しだが、国内メーカーの総生産台数は継続的に拡大する。30年のBEV市場は国内メーカー車が35%以上を占め、最大シェアを維持すると予測されている」
―中国の脱炭素への道筋と、その達成時期は
「中国は30年以前にカーボンピークに達し、60年までのカーボンニュートラル最終目標に向かって二酸化炭素(CO2)排出量を徐々に削減することを約束している。直近では今後5年でGDP当たり18%の引き下げを義務付けている。道路交通部門では30年にBEVの販売が40%を超えると予想され、新型車の走行時のCO2排出量はこの先10年で3分の1に減少する見込みだ」
「ただ、依然として石炭火力発電の依存度が高く、中国のBEVウェル・トゥ・ホイールのCO2排出量は、欧州連合の平均値の約2倍と推定されている。車両電動化が進むに連れて、エネルギー生産の脱化石燃料由来と、車両およびバッテリーの循環型エコシステム確立などによるグリーン化が、中国のネットゼロ目標達成への重要な課題となる」