新型コロナウイルスの感染は世界中に広がり、自動車メーカーの生産、販売活動に甚大な影響を及ぼした。国内メーカーのグローバル生産は、ブランドによってばらつきはあるものの、2020年1~10月で前年同期比2~3割減少した。新車市場は中国を中心に回復傾向を示したが、再び感染拡大の局面が広がったことで先行きは不透明となった。コロナ禍による業績への影響もさることながら、移動ニーズの変化や環境規制強化などによる電動化シフトも加速しており、各社はポストコロナを見据えた難しい舵取りを迫られている。

 コロナ禍からの販売回復は地域によってばらつきがあるものの、力強く需要を取り戻したのが中国と米国だ。昨年2月頃から部品供給網の寸断や都市封鎖(ロックダウン)などによって新型コロナの影響が出始め、乗用車メーカー8社の世界生産は4、5月に6割減まで落ち込んだ。しかし、6月以降は回復基調へと転じ、中国では前年実績を上回る勢いで推移。米国では10月の新車販売でトヨタ自動車やスバルが同月として過去最高を更新するなど勢いを見せた。国内市場も10、11月と前年実績を上回る水準まで需要が戻っている。

 回復ぶりが目立ったのがトヨタだ。新型車の攻勢もあって米中の旺盛な需要獲得に成功し、9、10月には世界生産、販売で同月として過去最高実績を更新。中国ではオンラインによる商談を採り入れるなどのコロナ対策も進めたことでV字回復を果たした。一方で、日産自動車や三菱自動車は新型車の投入が少なかったために回復需要をつかみきれず、苦戦を強いられている。

 米中の二大市場の伸長が目立つが、感染が再び拡大する中でコロナ禍の出口はまだ見えない。各社は新型コロナのまん延状況を注視しながらきめ細やかな対応を進めるとともに、商品投入の手を緩めないことが重要となる。

 コロナ禍においては各社の経営体質も浮き彫りとなった。20年4~9月期決算では多くのメーカーで世界販売がほぼ半減したものの、上場自動車メーカーでは5社が営業黒字を確保した。リーマンショック以降に積み重ねてきた収益改善の取り組みが功を奏した格好だ。営業赤字だった企業もコロナ禍を機に固定費削減を加速させ、回復へのシナリオを描く。コロナ禍においてもCASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)対応は待ったなしであり、各社とも研究開発費を維持しつつも〝稼ぐ力〟を磨くべく損益分岐点の引き下げに取り組む。

 コロナ禍に直面した自動車産業は業界発展に向けた連携を加速した。日本自動車工業会(自工会、豊田章男会長)が業界の旗振り役となって4月に医療現場への支援を表明。感染症危機の克服と経済復興に向け、業界一丸となって国難を乗り越える姿勢を示した。

 国内完成車工場でも稼働停止や減産を余儀なくされた4、5月、自動車メーカーや部品メーカーはこれまで培ってきたものづくりを生かそうと業界を挙げてフェイスシールドや感染者の輸送用車両など医療支援物資の生産に乗り出した。トヨタは「ウィズコロナ」の生活に欠かせなくなった足踏み式消毒スタンドを〝自社開発〟し、良品廉価な商品を提供することで社会貢献を目指す。

 自動車の国内生産台数は1990年の1400万台弱に対して現在は現地生産が進むが、それでも国内新車販売の500万台に対して1千万台弱と内需を大幅に上回る規模を維持している。上場自動車メーカーの売上高合計は約70兆円と製造業全体の約2割を占め、営業利益は4兆円に上る。また、すそ野の広い自動車産業の雇用は、全就業者の約1割に当たる約550万人に上ぼる。経済波及効果は、自動車が1上がると全産業が2・5倍引き上げられるとされ、それだけにコロナ禍においては力強い回復を示す自動車が日本経済の基幹産業として改めて存在感を示した。

 感染防止の観点から接触を避けるニューノーマル(新常態)が定着してきた。リモートワークや時差出勤など、多くの企業が働き方改革を推進。自動車メーカーの多くも在宅勤務を積極的に推奨し、事務系だけでなく技術系も業務がオンラインで遂行できるよう環境整備を進めている。スバルでは開発についてもリモートワークを導入しており、結果的に開発工程の効率化が進んでいるという。在宅勤務手当を支給するホンダは、リモートワークの定着を踏まえてオフィススペースの縮小も視野に入れる。

 販売の最前線では非接触型の営業スタイルを模索する。日産はオンライン上の商品ページで見積もりや試乗などの相談にオペレーターが対応する「オンラインチャット」サービスを導入。ディーラー店舗に来店する前の段階で消費者の疑問に答えることで店舗での商談を効率的に進める狙いがある。

 一部の新車ディーラーでは、コロナ禍を機に商談そのものをオンラインで行えるシステムを導入したが、認知度も低いせいか、活用事例はまだ少ないという。ただ、生活様式の変化によってこれまでの商習慣が一気に変わる可能性は十分にあり、デジタル活用はこれまでの対面での商談に慣れたスタッフの意識改革も欠かせない。デジタル戦略はコロナ後の営業効率向上や新規客獲得の武器になり得る。

 コロナ禍による移動や渡航制限、また感染リスクを避ける観点から航空や鉄道などの公共交通の需要は激減した。一方、プライベートな空間を確保できる自動車の価値が再評価されている。トヨタグループでサブスクリプション(定額利用)サービスを展開するKINTO(キント)が昨年11月に行ったコロナ禍での意識調査によると、「自家用車を保有したい」と考える人は8割を超え、現在クルマを所有していない人も4人に1人が「購入を検討している」という結果が出た。

 こうした中、「購入」よりも手軽にクルマを所有できるサブスクへの関心が高まっている。インターネットを介して申し込みが可能なキントでは、店頭での接触頻度を極力減らしたい消費者の受け皿となっている。ホンダが展開する中古車のサブスクサービス「ホンダマンスリーオーナー」は、利用期間が最短1カ月から最長11カ月と短いことが特徴で、レンタカーやカーシェアなどの「利用」と購入やリースといった「所有」の中間ニーズの獲得に成功し台数を伸ばしている。一方で、インバウンドの減少などでレンタカー需要は低迷。海外で伸びていたライドシェアサービスも不特定多数と乗り合う点において、コロナ禍では一気に逆風にさらされている。

 新型コロナの影響による需要の先行きが不透明な中、各国で環境規制強化が打ち出され自動車メーカーは対応に追われている。欧州では二酸化炭素(CO2)排出規制に対応するため、各社が電気自動車(EV)を相次ぎ導入するが、コロナ下で各国が需要を押上げるための補助金や税制優遇を導入していることもあり電動車比率が急伸長している。

 国内では、菅義偉首相がCO2などの温室効果ガスの排出を2050年までに実質ゼロにする方針を打ち出したことで、電動化推進の議論が一気に過熱している。自動車のカーボンニュートラルは走行中に排出するCO2のみならず、自動車の製造と使用、廃棄といったライフサイクル全体の環境負荷を見る必要があり、さらに動力源の電力などエネルギーミックスやサプライチェーンまで含めた取り組みが不可欠だ。電動化を加速するためには自動車メーカーの自助努力のみならず、政策的な需要喚起や脱炭素エネルギーのインフラ整備などの支援が欠かせない。