走行実証の様子
米テキサス州にあるテスラのAI学習用コンピューター
走行テストにも使用するモデル3

 米テスラが日本で先進運転支援システム「フルセルフドライビング」の走行実証を開始した。ドライバーは常時監視しなければならないため、「レベル2」に該当するが、認知、操作、判断をすべて人工知能(AI)が担う手法「エンド・ツー・エンド(E2E)」を用いるため、より複雑な交通環境でも運転支援機能を使用できるようになる。ただ、米国や中国ではE2Eを使用した自動運転技術の事故も発生しているほか、AIの判断過程が見えない「ブラックボックス問題」もある。同社が安全性を担保した上で認証を取得し、日本での市販化にこぎ付けられるか注目される。

 フルセルフドライビングは、車両に搭載した8つのカメラとAIで、駐車状態から目的地での駐車までを運転支援するシステム。日本向けのテスラ車にはアダプティブクルーズコントロールと車線維持支援機能などを軸にした「オートパイロット」を搭載しているが、フルセルフドライビングではより幅広い範囲でシステムが運転に介入。自動駐車や車両の遠隔操作なども構成機能に含まれる。

 日本での実証実験は「モデル3」のテスト用車両を使って行っている。テスト車両ではあるものの、AI用のハードウエアやセンサーシステムは市販車と同じものを使用。20日には横浜市内で同社従業員が運転席に乗車し、「いつでもハンドルに手を戻せるハンズレディ」(同社広報担当)の状態で走行している動画を会員制交流サイト「X」で公開した。

 ハンズオフ運転は2019年にBMWが国内に導入して以降、日産自動車やトヨタ自動車、スバルなども採用しているが、ハンズオフ以外の機能も含めて高精度地図を用いる。一方、E2Eで運転支援を行うテスラの場合、高精度地図は必要なく、安全性さえ担保できれば、より広範囲な運転支援を実現できる。中国などでは実用化が進み始めているものの、日本の一般道をE2Eの車両で走行実証していることが明らかになったのは今回が初めてとみられる。

 E2Eはテスラや中国企業が先行しているほか、日本の自動車メーカーも開発を進めている。トヨタは中国メーカーと組んで新型車に導入し始めたほか、ホンダは27年以降に自社開発したE2Eのシステムを世界市場に投入する計画だ。経済産業省も「モビリティDX戦略」の中で、日本の競争力向上へAIを用いた自動運転を協調領域に位置付けており、民間同士の連携を促し始めた。

 もっとも、グローバルで広くE2Eが普及していくかは不透明だ。AIによる判断の根拠が説明できないことや、学習データが少ない状況ではスムーズに作動しない可能性がある、といった課題も多く残るためだ。今後、日本にもE2Eの自動運転が普及するのか。先行するテスラの動向が試金石の一つになりそうだ。

(水鳥 友哉)