「ケチケチ経営」が本領発揮

 スズキは生産設備などを、法定償却期間よりも大幅に短い平均3年間で償却するが、今回は一部の償却を先送りした。設備投資についても「不要不急」なものについてはすべて先送りした。さらに、テレワークの実施などによって出張費や交通費など経費の大幅削減を実行し、スズキが得意とする「ケチケチ経営」の本領を発揮。営業利益段階で、4~9月期に諸経費の削減と減価償却費だけで前年同期に比べて1000億円超の増益効果を生み出した。「非常態勢で経費削減を実行してきた」(鈴木社長)ことで、筋肉質な経営となり、これが7~9月期のV字回復につながった。

 もう一つの理由が5割のシェアを握るインド市場で、今後も主導権を握り続けることに対する焦りだ。もともとグジャラートの新工場は、4月に操業開始する予定だったが、新型コロナ感染拡大で一旦、7月に延期した。その後、市場の先行きが不透明なことから稼働時期を未定としていた。新工場の生産能力は年間25万台で、稼働すれば固定費が膨らみ、稼働率が順調に上がらなければ経営の大きな重しになる。

 一方、ライバルは積極投資に動いている。シェア2位の現代自動車はインドの工場の生産能力を増強したほか、グループの起亜自動車が昨年末、年産30万台規模の新工場を本格稼働し、新型車を相次いで投入、マルチ・スズキの追撃に本腰を入れている。

シェア50%キープのため、ギリギリの決断

 スズキも、インドの販売をてこ入れするため、新型車の投入を計画しているが「新機種を生産する設備の手配などを考慮すると、新工場を来年4月までに稼働しないと、他の工場の生産にも支障が及ぶ」(鈴木社長)状況だった。かといって新型車の投入を遅らせることは、インド市場でシェアを奪われることになりかねない。シェア50%をキープするためにも、新工場の来年4月稼働はギリギリの決断だった。

 筋肉質経営に対する自信と、ライバルに対する焦りから、工場稼働の勝負に出たスズキ。インド市場が順調に回復して、市場に受け入れられるモデルを投入できるかが、今後のスズキの業績のカギを握る。

(編集委員 野元 政宏)