F1からの撤退を発表する八郷社長(10月2日)

2020年4~6月期(第1四半期)の連結純利益が過去最高となる1兆2557億円を計上したソフトバンクグループ。今やAI(人工知能)や半導体、IT関連企業などに出資する巨大投資会社となったが、前身は孫正義氏が立ち上げたコンピューターの卸売事業を営むベンチャーだ。その後、パソコンソフトの卸・出版事業、日本でのヤフー(ヤフー・ジャパン)立ち上げ、通信事業、携帯電話事業へと、時代の変化とともに事業の軸足を移し、巨大化していった。

時代に合わせた企業の業態変化を最前線で主導してきた孫氏が、最も尊敬する起業家として挙げるのがホンダの創業者である本田宗一郎氏だ。町工場から世界的な自動車メーカーに成長させた異色の経営者である宗一郎氏の「DNA」を継承してきたホンダは「技術至上主義」や「自主独立」など、自動車業界の中では異端の存在として見られがちだ。しかし、100年に1度と言われる変革期を迎える自動車業界の中でホンダを率いる八郷隆弘社長は、宗一郎氏が遺した「ホンダのDNA」にも切り込む形で社内改革を断行しようともがいている。

心臓部の研究開発体制にメス

最初の大きな一歩となったのが、ホンダの心臓部とされてきた研究開発体制の改革だ。ホンダは4月1日付で、それまで本田技術研究所が手がけてきた四輪車の市販モデルの開発機能をホンダ本体に移管した。

ホンダは研究所が市販モデルを開発するという世界の自動車メーカーでも珍しい体制をとっていた。「成功は99%の失敗に支えられた1%だ」が持論の宗一郎氏は、技術者が周囲の雑音を排除して研究開発に専念できる環境が重要と考え、ホンダから新車開発部門を分離・独立させる形で研究所を発足させた。量産車や量産技術の開発を研究所が担うのがホンダの特徴で、この体制があったからこそ米国マスキー法に適合する世界初のエンジン「CVCC」や、可変バルブタイミングリフト機構を採用した「VTECエンジン」など、ホンダの競争力の高い技術の開発につながったとされる。自動車メーカー最後発のホンダがライバルに伍していくためには独創的な技術を生み出すことが重要と考える宗一郎氏の思いが詰まった研究所は、いわばホンダの「聖域」だった。

IT(情報技術)の進化や、環境規制の強化、クルマに対する人々の価値観などの変化によって自動車産業は地殻変動と呼べるほど激変している。ホンダが得意とするハイパワーなどのエンジン関連技術に対するニーズは低くなり、代わって電動化や、自動運転といった電気・電子技術が自動車技術の主役に躍り出ている。ホンダの開発体制の再編は、こうした自動車を取り巻く環境変化に対応するためだ。市販車の開発機能をホンダ本体に移管するとともに、開発部門を営業や生産、購買などの各部門と統合。エンジニアの独りよがりになりがちだったとされる新型車の設計・開発のやり方を、市場ニーズに対応した開発体制に切り替えた。研究所は自動運転やロボティクスなど、将来を見据えた先端技術の研究開発に専念する。

ホンダがこれらエンジン重視、技術至上主義から脱却しようとしているのにはもう一つ大きな理由がある。ライバルと比べても低い四輪車事業の利益率だ。ホンダの20年3月期の四輪事業の営業利益率は1.5%。二輪車事業の営業利益率13.9%と比べてかい離しており、ライバル自動車メーカーと比べても営業利益率の低さはここ数年のホンダの経営課題となっている。