F1は今後もエネルギー回生技術を採用するが、ホンダは参戦終了を決めた

 ホンダが2021年シーズンでのフォーミュラ・ワン(F1)への参戦終了を決めた。内燃機関(ICE)とエネルギー回生システム(ERS)を組み合わせたパワーユニット(PU)サプライヤーとして15年に復帰。航空機部門の協力も得ながら、オールホンダでエネルギーマネジメントが性能向上の重要なカギを握るPU開発に注力してきた。今後はF1挑戦をやめ「カーボンニュートラルを実現するため新たなPUとエネルギーの研究開発に経営資源を集中する」(八郷隆弘社長)。F1という世界最高峰の「走る実験室」なき次世代技術開発に挑むことになる。

 「高効率モーターは、電気自動車(EV)やハイブリッド車(HV)にとって必要なもの。F1と量産は近いところにある」。6月23日、本田技術研究所HRD SakuraでPU開発総責任者を務める浅木泰昭センター長兼F1プロジェクトLPLは、20年シーズンを前にした記者会見でこう強調した。

 モータースポーツでの技術開発を量産車に生かし、人材を育てる―。ホンダがF1をはじめとするレース活動に取り組むのは、創業以来つむいできた一貫した信念があるからだ。

 特に近年のF1は、環境意識の高まりを背景にエネルギー回生技術の導入を進めており、ホンダが15年からの第4期F1活動の再開を決めた理由の一つもここにある。

 F1は09年に運動エネルギー回生システム「KERS(カーズ)」を導入。14年シーズンからは運動エネルギーに加えて、排気エネルギーも回収する新たなエネルギー回生システムとしてERSの採用を決めた。

 ホンダがF1への復帰を決めたのは、まさにこのエネルギーマネジメント技術があったからだ。

 F1復帰を発表した13年5月16日のニュースリリースには、「F1では14年より、1・6㍑V型6気筒直噴過給エンジンに加え、エネルギー回生システムが採用されるなど、エンジンのダウンサイジング化をはじめとした環境技術が導入されます。これらの技術への挑戦は、内燃機関のさらなる効率化や、ハイブリッドシステムなど、先進のエネルギーマネジメント技術を常に追求してきたHondaにとって、将来技術の開発や技術者の育成などにおいて大きな意義があると捉え、参戦を決意しました」(原文)と明確に記している。

 現在、F1に搭載される運動エネルギー回生システム「MGU-K」、排気エネルギー回生システム「MGU-H」を巡っては、「システムが極めて複雑でコストが高く、量産車技術にはつながりにくい側面もある」と指摘する声もある。

 一方で、メルセデスAMGは今年6月、MGU-H直系の「電動排気ガスターボチャージャー」を今後発売する最新モデルに搭載すると発表。F1技術を市販車に生かす方針を掲げるメーカーもある。

 ホンダは「将来技術の開発や技術者の育成などにおいて大きな意義がある」として、第4期F1活動を再開した。そして、F1参戦終了に当たっては経営資源の集中に加え、「優勝という目標を達成でき、一定の成果を得ることができた」(八郷社長)とも強調した。

 ホンダが参戦を始めた15年シーズンから現在(20年第10戦時点)まで全112戦が行われ、ホンダPU搭載車の優勝は5回だ。ライバルのメルセデスは81勝、フェラーリは17勝を果たしている。

 現在、F1には年間数百億円の費用が掛かると言われている。ホンダのF1撤退は「財務基盤が弱っている今、巨額の参戦コストを抑えるため」と指摘する声もあるが、八郷社長は「短期的な収益というよりカーボンニュートラルの目標を掲げ、そこに向けて経営のリソース、特に技術者というリソースを傾ける」と話す。

 F1は、参戦コストの低減などを目的にレギュレーションの変更を21年に予定しているが、ERSを含むPUの環境技術は継続して採用される。

 ホンダはガソリンを消費してパワーを絞り出すICEを動力源にするインディカーやスーパーGT、スーパーフォーミュラへの参戦を継続する一方、環境技術を使うF1だけの参戦を終了し、新たなPUとエネルギーの研究開発に経営資源を集中させる。

 ホンダとF1が目指すサステイナブルな目標は同じようにも思えるが、その実現までのプロセスは同軸上にはないのだろう。

 モータースポーツは走る実験室と言い続けるホンダ。走る実験室の最高峰であるF1からの撤退により、カーボンニュートラルの実現に向けた将来技術の開発、技術者育成への加速力が鈍らないことを期待している。(水町 友洋)