動画投稿サイトやSNS(会員制交流サイト)では、自動車整備の仕事や工具類、車に関することなどを容易に閲覧できる。発信者とのやり取りも楽しめるのも特徴だ。一方で、発信を続けることは、決して容易ではない。整備の動画配信者に、投稿に当たって留意することや狙いなどを聞いた。
ナリタオート(静岡県藤枝市)の成田隆雄代表は、動画投稿に際して「視聴者が飽きないこと」に留意している。成田氏は整備の方法や使用している工具類の紹介などを動画共有サービス「ユーチューブ」や動画アプリ「TikTok(ティックトック)」などに投稿するが、動画を最後まで見てもらうことに気を配る。動画がつまらなければ、視聴者はすぐ別の動画に移ってしまうからだ。
大林モータース(香川県丸亀市)の大林竜輔社長は、ユーチューブに動画を毎日投稿している。同社と大林社長自身のことを知ってもらうことで、考えが一致するユーザーの来店を促すためだ。同社ではホームページに、理想の顧客についても明示している。来店客の2~3割は香川県外から訪れるようになったが、大林社長は「大事なのは、どのようなお客さまがほしいのかを決めること」と語る。
羽黒自動車整備工場(山形県鶴岡市)の小野寺秀之代表は、入庫した車を修理する動画を、一般ユーザーと現役の整備士の双方に発信している。作業ごとに撮影を行うため、例えば30分の動画1本を作るには、完成までに5、6時間かかるという。撮影や編集は一人で行っているが、「適当に作った動画だと見てもらえない」とし、手を抜かない。
業務がある中でも、手間がかかる投稿を長く続けるためのポイントは何か。成田氏は「投稿までのハードルをどれだけ低くできるかが大事」という。そのため、再生回数など自身が求める結果につながらないことは行わないといった取捨選択が必要だとする。大林社長は、手間をかけてクオリティーの高い動画を投稿しても、「それが再生に直結するとは限らない」という。また、投稿頻度が少なければ「視聴者の印象に残らない」とも指摘。視聴者の認知を広げ、再生数を増やすためには「打席に立つ回数が多い方が、結果がついてくる」と考え、日々動画を投稿するようにしている。
動画撮影に欠かせない機材のハードルも、一昔前よりも低くなっているようだ。小野寺代表は「スマートフォン用の三脚があれば、(スマホで)作業用の動画は撮れる」とし、投稿を検討している整備士らに「まずはやってみて」とアドバイスする。
日本自動車大学校(NATS、矢部明学校長、千葉県成田市)は、コロナ禍による休校中も情報発信を続けるため、20年4月にユーチューブの公式チャンネルをリニューアルした。同校の動画には、教員が積極的に出演するのが特徴になっている。これは講師の石田直人さんの「先生を有名にした方が、入学者が増える」という考えからだ。
また、カスタマイズ科教員の有田勇也さんは、同科の学生が「東京オートサロン」に出展するカスタムカーの制作過程を、自ら動画に出演して紹介している。このほか、学科ごとに「インスタグラム」のアカウントを立ち上げており、担当している教員らが動画や写真などを投稿する。林英伸学校長代理は、志望する高校生に関心を持ってもらうために「SNSを有効活用しない手はない」と、引き続き積極的に活用していく考えだ。
整備の動画を投稿して整備士の募集につなげる取り組みもある。警視庁のユーチューブ公式チャンネルでは今年5月、警視庁の自動車センター(整備工場)で白バイの修理を行う様子や、整備を行う職員のインタビューなどをまとめた動画を投稿した。整備職の認知拡大のために初公開したものだ。7月には第2弾の動画をアップしており、いずれも13万回以上の再生数となっている。
警視庁では整備職を他の職種と別に募集を行っているものの、受験者数は減少傾向にある。動画でも「受験希望者が増えることを期待している」との思いを込めている。
月刊「整備戦略」9月号では特集企画「整備の仕事や楽しさを拡散する」を掲載します。