アマギでは普段の接客のルールが細かく決められている(アマギ提供)

 自動車整備業をはじめサービス業では、接客応対のレベルが顧客の評価につながる。ただ、サービス業全般では今、顧客がスタッフに暴力的な言動で迫る〝カスタマーハラスメント(カスハラ)〟が話題になっている。ストレスから退職するケースもあり、人材不足の観点から対策に乗り出す事業者が増えている。整備業では普段の接客応対の品質を高める取り組みを進めるところが多かったが、今後はカスハラ対策にも気を配る必要がありそうだ。

 大手整備事業者のアマギ(小川一弘社長、相模原市緑区)では2~3月にかけ、カスハラ対策の研修を初めて行った。同社の人事部が中心となり、対面とオンラインを併用して約120人の社員がほぼ全員受講した。

 同社では年に1、2回程度、カスハラに該当する事例が発生しているという。その時に必要な知識を事前に学ぶことで、社員を守ることが狙いにある。小川社長は「カスハラは今後増えると思った方がいい」と、万が一の事態に備えておく必要性を説く。

 普段の接客では、毎年4月に発行している経営計画書に仕事に関するルールを細かく記載しており、それに基づいて対応している。例えば、顧客への連絡を電話や携帯電話のSMS(ショートメッセージサービス)で行う場合、発信者を明確にするためにその場で担当スタッフの携帯電話の番号を登録してもらうなどだ。

 また、電話で連絡する場合はつながりにくい時間帯を確認するなど、具体的な手順が決められている。守られていない場合は、店長などの責任者がルールに基づいた注意、指導を行う。

 カスハラ対策について、人材研修などを手掛けるメイン(池田絵美社長、東京都港区)で講師を務める桃原則子氏は「人材不足を何とかしなければいけない状況下で、ハラスメント対策は必須だ」と指摘する。人材不足を背景にさまざまな業種でカスハラ対策が進んでおり、求人広告には「福利厚生などとともにハラスメント対策の記載がないと人が集まらない」という。

 特に、飲食業など顧客とじかに接するサービス業では、カスハラが原因で辞めていく従業員が多いという。そのため、桃原氏は顧客対応が欠かせない整備業も、「カスハラ対策に取り組む必要がある」とする。

 さらに、研修では企業の経営者や管理者に、カスハラが発生した時の対応など会社として体制を整える必要性なども伝えている。また、カスハラに遭った社員に対して桃原氏は「声を上げることは正しい」とも教え、「自分の接客対応に問題があったからだ」とスタッフが一人で抱え込まないように注意を払う。

 整備業にも顧客対応のデジタルツールを提供しているシンカの江尻高宏社長は、昨夏に同社のサポート部門がカスハラに遭っていたことを明かす。社内で被害の有無を確認した際、社員から報告があったという。江尻社長は「当社にカスハラはない」と思い込んでいたため、「大きな驚きだった」と振り返る。「自分にも非があると思って言い出しにくい」ことが、経営者にとって落とし穴になるとみている。

 カスハラの発生の背景について、江尻社長は「ほとんどはそこに至るまでの対応への不満が積み重なっていることが原因」だと分析している。顧客の兆候に「早い段階で気が付き、会社として対応することでカスハラは防げる」と、全社を挙げた対応が重要との見方を示す。

 顧客からのクレームとカスハラはどう違うのか。アマギの小川社長は、「クレームは苦情、クレーマーは不当な金銭を要求する人だ」と位置付けている。加えて、カスハラは「犯罪」とも言い切る。理不尽な要求に対しては「徹底的に戦う」ことで、社員を守っていく考えだ。

 月刊「整備戦略」4月号では特集「接客応対のレベルを引き上げる」を掲載します。