バーチャルからリアルへ―。有力なeモータースポーツ選手がレーシングドライバーを目指す活動を支援するトヨタ自動車のプロジェクトが本格始動した。トヨタガズーレーシング(TGR)による「TGR eモータースポーツチャレンジリーグ」で優勝した中学3年生の石野弘貴選手は、今シーズンのカートシリーズに参戦するための手厚いサポートをTGRなど協賛各社から受けられる権利を得た。運転免許証さえ持たない〝バーチャルレーサー〟を支援する狙いとは。
TGRがeモータースポーツに参入したのは2019年のこと。これまで「GRスープラGTカップ」などを運営してきたが、今回のチャレンジリーグがこれまでと大きく異なるのは、優勝者にレース活動に必要な物品や経費をサポートすることにある。
具体的には、入門者向けのカートレース「SLシリーズ」に参戦するための支援で、エンジンやフレーム、タイヤ、スペアパーツ、消耗品、ケミカル類、メカニックサポート、輸送費などを補助する。住友ゴム工業や日本特殊陶業、エンパイア自動車など協賛企業8社の協力を得て、シーズンを通した手厚いサポート体制を提供する。
ガズーレーシングカンパニーの高橋智也プレジデントは「金銭的な理由でレーシングドライバーの道を閉ざさざるを得ない子を減らしたい、支援していきたい」と語る。 一般にカートレースに挑戦するには車両代などで150万~200万円、年間シリーズへの参戦ともなると、スペアパーツや遠征費などで百万単位の費用がさらに加わる。一般的な家庭で、こうした費用を捻出するのはなかなか難しい。TGRの加地雅哉グローバルモータースポーツディレクターは「手軽に始められるeモータースポーツの存在は大きい」と言い、サポート制度を通じ「(モータースポーツの)才能が埋もれていかないようにする」と話す。
レースゲームの延長と思われがちなeモータースポーツだが、動体視力が重要という観点ではリアルモータースポーツと同じだ。「瞬間的に流れていく景色から運転するための瞬発力、認知・判断・操作はすごく鍛えられる」(高橋プレジデント)という。
また、世界で通用するレーシングドライバーになるには「正直、16歳から乗っても世界的に見れば遅い」(同)。このため、今回のチャレンジリーグでは小学5年から中学3年まで参加できるようにした。「車に乗れる前の世代から経験を積むことでトップカテゴリーへの道が早まる」(同)と期待する。
現在、F1(フォーミュラワン)やWEC(世界耐久選手権)といったトップカテゴリーで、TGRの平川亮選手や宮田莉朋選手らが活躍する。今回のチャレンジリーグの初代チャンピオンとなった石野選手も「宮田選手を目標にしている」と話す。
「リアルレーサーになることを目標にしていたので絶対に勝つつもりで挑んだ」(石野選手)。こうした強い意思を持つ有能な人材を将来の世界で活躍するレーシングドライバーに育てるためにも、加地ディレクターは「裾野からトップカテゴリーにつながる道筋をしっかりつくっていく」と決意を語った。
(水町 友洋)