G20Eエンジンは後軸前方に搭載
ボンネットを開けるとエンジンはなく、冷却機構と駆動部品などが見えるだけだ
ミッドシップスポーツカーの復活なるか(MR2)

 トヨタ自動車は「GRヤリス Mコンセプト」を開発した。「スーパー耐久シリーズ」への参戦を計画する。エンジンを車体中央に積んだミッドシップの4WD(四輪駆動)車としては実に40年ぶりの〝復活〟だ。市販の予定は今のところないが、中嶋裕樹副社長は、ミッドシップスポーツカーについて「レストアも一つの手だが、今の時代に応じた形で提供しなければならないと思う」と含みを持たせる。

 「ミッドシップって何だかよく分からない。ゼロからのスタート」。GRヤリスシリーズの開発を担当する齋藤尚彦チーフエンジニアはこう話す。

 トヨタがミッドシップ4WDを開発したのは、FF(前輪駆動)ベースの4WDで発生するネガティブ要素を排除するためだ。エンジンと駆動機構を車体前部に積むFFは重量バランスが前寄りになる。この結果「ステアリングを切り、車が実際に向きを変えるまでにわずかなラグ(時間差)が生まれてしまう」(トヨタガズーレーシング所属の佐々木雅弘選手)。この時間差を解消するため、技術的手段の1つとして、ミッドシップ4WDを試すことになったという。

 直列4気筒2㍑ターボエンジン「G20E」は後軸の前寄り―つまり荷室付近に搭載されている。エンジン出力は変速機とドライブシャフト、センターカップリング機構などを通じて前後輪を駆動する。重量バランスの最適化により、旋回性と駆動性が飛躍的に高まった。

 トヨタがミッドシップ4WDの競技車両を開発するのはこれが初めてではない。1987年の世界ラリー選手権(WRC)に出場するため、当時の車両規定「グループS規定」で「222D」というラリーカーの開発を進めていた過去がある。

 ただ、グループSの前身カテゴリーであるグループBで事故が相次ぎ、国際自動車連盟はグループBの廃止を決定。参戦カテゴリーが消滅することになり、222Dは日の目を見ることのない〝幻のラリーカー〟になった。Mコンセプトは、222Dを開発していた1985年以来、40年ぶりのミッドシップ4WDマシンとなる。

 現時点でMコンセプトの市販は考えていないというが、過去には「MR2」「MR―S」というミッドシップスポーツカーもあった。スーパー耐久への参戦は、モータースポーツを起点とした「もっといいクルマづくり」の一環だ。高い旋回性と加速性能を備えた新たなGRスポーツカーの登場が期待される。

(水町 友洋)