日産自動車は今秋に5年ぶりに全面改良して発売する軽自動車の新型「ルークス」で、テレビCMの視聴率と本数の積算で示す「GRP」の値を現行型から倍増する。新型車の投入不足などで国内販売が低迷する中、日産にとって3年ぶりの待望のニューモデルとなる。世界規模でのリストラを進めている中ではあるものの、新型ルークスのPRにかける予算を捻出してCMによる情報発信を強化する。新たなユーザーを系列販売店に誘引し、国内市場での再起に弾みをつけたい考えだ。
軽市場で主流となっているスーパーハイト系の中で、現行ルークスの勢いは弱くなっている。同社では課題の一つがマーケティング手法にあったとみており、新型で見直す。例えば、広告宣伝では先進運転支援システム(ADAS)など技術面を軸にしていたが、「軽のユーザーにはマッチしていなかった」(担当者)との反省があった。このため、使い勝手の良さや親しみやすさなどを重視した内容に切り替える。
また、現行型の発売は2020年で、コロナ禍と重なったこともあり、十分に新型車を告知できなかったことも逆風になったとみている。新型では、軽ユーザーに響くCMの露出量を増やすことで、巻き返しを期す。広告宣伝は発売の前後から集中的に投入していくが、先行展示会も増やす。販売会社のほか、全国のショッピングモールなどでも実施する計画で、顧客との接点を増やして受注拡大につなげる。
商品力も引き上げる。現行型は「競合モデルよりもサイズが小さく見えていた」(開発担当者)ため、Aピラーの角度やテールランプの形状を見直し、ボリューム感を出したという。また、スーパーハイト系では業界初となる遮音ガラスを採用したほか、競合車に比べて少なかった前席の収納スペースも増やした。同社によると、新型ではマイルドハイブリッド車(HV)を廃止することで浮いた原資を、快適性や利便性の向上に役立てたという。価格は現時点で非公表だが、エントリーモデルのほか、上級グレードなども現行型からの値上げ幅を最小限にとどめるとしている。
販社の期待も大きい。現行型を発売した20年度には、日産車の中で「ノート」「セレナ」を上回り、ベストセラーとなった。今も他銘柄車からの代替が多い車種となっている。新型で、新規客の獲得を加速したい考えだ。
もっとも、越えるべきハードルは高い。ルークスの24年度の販売台数は6万8989台。競合車は年間20万台を販売するホンダ「N―BOX(エヌボックス)」をはじめ、スズキ「スペーシア」(16万8千台)、ダイハツ「タント」(12万台)と差がついており、埋めるのは容易ではないのが実情だ。
日産の24年度の国内販売台数は48万4千台で、前年を割り込んだ。新型車不足に加え、メーカーの経営悪化によるイメージ低下などで顧客離れが起きているのが影響した。業界団体がまとめた25年1~6月の実績も同10.3%減の22万495台にとどまり、統計が残る1993年以来、過去最低の水準にまで落ちた。新商品がないことで販社も目立った販売促進活動も打ち出せず、我慢の状況が続いている。小規模販社を中心に財務状況も悪化しつつある中、販売現場は「これが売れなかったら日産の国内は終わり。絶対に売らなければいけない」と、背水の陣で挑む構えだ。
(水鳥 友哉)