ゲームチェンジ進む自動車業界

ただ、ホンダも一貫して独立独歩の道を歩んできたわけではない。1979年にホンダはローバーの前身の企業と資本提携した。94年にローバーを買収する直前、ローバーのオーナー会社が突如としてBMWにローバーの株式を売却、ホンダはローバー買収に敗れた。ホンダとローバーの提携は解消され、ホンダの欧州戦略は大幅な見直しを余儀なくされた。この時の苦い経験が、技術も市場も他社に頼らない自主独立路線にホンダを走らせたと言われる。

しかし、自動車のトレンドである電動化や自動運転、コネクテッド技術など、新しい分野を、他社に後れることなく、自動車メーカーが単独で対応していくのは不可能だ。100年に1度とされる自動車業界の変革と危機感に背中を押される形で、ホンダも他社との連携にオープンになりつつある。

ホンダの脱・自前主義はGM以外でも加速している。19年3月にはトヨタ自動車とソフトバンクが共同出資して設立したMaaS(サービスとしてのモビリティ)事業を推進するモネ(MONET)テクノロジーズに資本参加した。今年1月にはいすゞ自動車とFC大型トラックの共同研究で合意している。

世界的な環境規制の強化や、電子技術を活用した先進的な安全技術に対するニーズの高まり、デジタル技術を活用した新しい自動車関連ビジネスの創出など、自動車を取り巻く環境は大きく変化している。これらに対応しなければ生き残れないとの見方は強まっている。EV専業のテスラが自動車メーカーの時価総額トップになっていることが、こうした動きを象徴しており、既存の自動車メーカーはクルマを造って売るだけのビジネスモデルからの脱却を迫られている。

こうした状況に強い危機感を抱いているのがホンダの八郷社長だ。量産車の独特な開発体制を改め、ホンダブランドの象徴でもあったF1からの撤退も決定した。GMをはじめとする他社ともオープンに連携する。ホンダが築いてきた過去のこだわりや特徴を切り捨て、新しいホンダに生まれ変わるための施策を次々に打ち出しており「第二の創業期」に入ろうとしているように見える。

町工場だったホンダが単独で世界的な自動車メーカーに成長したのは、独創的で競争力の高い技術へのこだわりなど、宗一郎氏のDNAが社内に脈々と受け継がれてきたことによるところが大きい。一方で、今後の技術の主流となる電気・電子技術を多用するEVや自動運転は、他社と差別化するのが難しいとされる。次世代技術ではITなどの異業種やスタートアップ企業などが有力な技術を持ち、競争環境も従来と異なってくる。

「ゲームチェンジ」が進む自動車業界でホンダが生き残るためには、技術至上主義や自主独立路線から脱却するだけでなく、ソフトバンクのように業態が変わるほどの"化学変化"が必要だ。激変する自動車業界の中で、ホンダが何を特徴とするのかは見えてこない。「ホンダらしさ」を早急に打ち立てることが求められる。

(編集委員 野元政宏)