日本自動車工業会など自動車工業4団体は10日、インターネット上で合同会見を開き、雇用や日本経済を守るための新たなファンドの組成や医療物資の生産支援をはじめとする社会貢献に取り組む方針を発表した。主な質疑は以下の通り。

―異例の会見になった。自工会を除く3団体のトップの思いを聞かせてほしい

日本自動車部品工業会・岡野教忠会長「自動車産業として日本の困難な局面において、いろいろな形でご協力できるのではないか。自動車は約3万点の部品で構成されており、我々はその一つ一つを作るための技術を持っている。そこには汎用性や応用性があり、医療関係に必要となる機器や資材の生産に役立てることができるはずだ。会社の話にはなるが、リケンは2007年の新潟県中越沖地震で被災した時、復興のために自動車産業の多くの方々に協力してもらった。その時、自動車産業の団結力と持っている技術力の高さに本当に感動した。その技術を継承し、自動車産業を支え、日本の経済を復興していくためにはサプライチェーンを維持する必要もある。ファンドについてもなるべく早く具体化していきたい」

日本自動車車体工業会・木村昌平会長「我々は働く車を開発、製造する300社で構成される団体。人やモノを輸送するバスやトラックのほか、放送中継車や救急車などの生産を通じて社会に貢献している。新型コロナで受注のキャンセルを受けた会員企業もあり、企業活動への打撃は大きい。受け身の体制で小さく構えるのではなく、4団体一体となり、得意とする車づくりで国難に貢献したい」

日本自動車機械器具工業会・辻修理事長「安心、安全な移動のためには自動車の整備が必要不可欠となる。その自動車整備業界に整備機器を安定的に供給するのが我々の責務。雇用を守りつつ、社会に貢献していきたい」

―ファンドを組成することに至った経緯は

日本自動車工業会・豊田章男会長「先が見えないのが現状だが、そんな中でも元気な所と本当に苦しくなってきた所がある。ボクシングで言えば我々は今、クリンチをしている状態。つまり、相手が弱るのを待ち、致命傷を負わず、体力を使わないようにしている。4団体の致命傷が何かというと、要素技術と人材を失うこと。ものづくり企業は技術と人材が基盤だ。どういった技術や人材を守るべきか目利きができる4団体が協力し、互助会のようなファンドを作り、致命傷を防ぐ。将来的により多くの税金を納められるようになるためにも、政府にも損金算入できる仕組みを考えてほしい」

―雇用に対する意識は

豊田会長「最終的にはそれぞれの会社の個別判断にゆだねることになるが、大切なことは会員企業の会社の1人でも欠ければ今の状況は継続できないということ。とはいえ、雇用状況がどんどんおかしくなることは想像できる。ものづくりの力を習得した人材、それを活用できる仕事場がなければ、経済復興には時間がかかる。今こそ人を宝と認識するべき。業界団体としては、要素技術や人材を失ってものづくり企業の基盤を壊さぬように、何とか雇用を守っていきたいと考えている」

―自動車メーカーとして財務基盤が弱いサプライヤーへの支援は考えているか

豊田会長「OEM、サプライヤーもここ直近までは人手不足だった。今、需給の関係や政府規制とそれに伴う部品欠品で稼働できない状況になったからといって習得した技能を持った人をすぐさま派遣切りするようなことがあると、その後の復活に時間がかかる。その点については、少なくとも1次サプライヤーにはお願いしている。もちろん、それぞれの会社の都合はあると思う。それでも、裾野が広い自動車産業が競争力を維持するには日本の調達基盤が必要になる。そういった思いでファンドを作る。我々は困っている人の顔が見える。会社単位だけではなく業界単位で人員維持を図りたい。今まで協力できなかった企業同士でもこのネットワークを通じて助け合えるようにしたい。そうすれば政府ももっと困っている所に人、モノ、カネをまわせ、日本という国を助けられることになる。今までの業種の枠を超え、何でも作る、何でも仕事するという覚悟が必要だ」

―ファンドの規模や組成時期は

豊田会長「正直、まったく決まっていない。ただ、トヨタ自動車の場合、売り上げは約30兆円でそのうちの7割が購入部品。部品業界からしたら売り上げに当たるその金額は20兆円になる。また、設備投資や開発費、株主還元などにそれぞれ1兆円規模をかけてきた。ここが20%減ったとすれば、トヨタの売り上げは6兆円減、部品メーカーの売り上げは4兆円減、設備投資や開発投資などが2千億円減ということになる。これがたった2カ月で起きた。日本の自動車出荷額は約70兆円なので業界では14兆円が消えたということ。互いにどんな仕事でもやりながら雇用を維持し、そしてコロナが収束したときに備えて生産性を向上し、スタートダッシュの準備を進めていきたいが、その間に我々の仲間が死んでしまってはどうしようもない。そのためには相当な規模の金額が必要になってくる。税金を納めてきた企業が一部復興の方にお金をまわせる仕組みを決めていただければ、一時期税金は下がるかもしれないが、復興が遅れれば国がずっとおかしくなる。自動車を復活させていけば、他の産業や地域にも波及効果はある。1つの会社や1つの業界団体で賄える金額ではない。だからといって政府だけを頼ればいいというわけではない。みんなが当事者意識を持って日本を思い、自分ができることをやり、自分ではできないことをやってくれる人にはありがとうと言う。みんなで助け合うことが今は必要だ」

―緊急事態宣言が出たが、稼働は維持する方針なのか

豊田会長「今、起こっている稼働停止は需給調整が出発点。その次に出てきたのが政府の規制。そうこうしているうちに部品の欠品も出てきた。それぞれ状況が異なる。売れている車の工場で感染者もいなく、部品メーカーも稼働ができていれば稼働は続けていく。東日本大震災の時もそうだったが、すべての工場が一時止まった。ただ、工場のにおいや音がいろんな人の元気につながった。仕事があってこそ日本を元気にできる。そういう意味では、稼働を続けられる環境であれば続けたい」