パナソニックの基盤事業として力を入れてきた電池事業だが…
サイバートラックは年産で最大50万台との見立てに対し、昨年の販売は4万台弱にとどまった

 パナソニックホールディングス(HD)が集中投資してきた電気自動車(EV)用電池事業の成長に黄信号が灯っている。主納入先であるテスラの販売低迷に加え、トランプ米政権がEV補助金(税額控除)を今年9月末で打ち切るなど、逆風が強まっているためだ。電池事業を手掛けるパナソニックエナジー(エナジー社)の今期業績見通しは据え置いたが、先行きの不透明感は増す一方だ。

 「(EV電池は下振れだが)まだ数字に確かさがなく、精査している」―。パナソニックHDの和仁古明CFO(最高財務責任者)は30日の2025年4~6月期決算オンライン会見で、エナジー社の通期業績見通しを据え置いた理由をこう説明した。

 エナジー社の4~6月期業績は売上高が前年同期比3%増の2193億円、調整後営業利益が同46.5%増の318億円と増収増益だった。好業績をけん引したのはデータセンター向け蓄電システムや米IRA(インフレ抑制法)による電池販売補助金が243億円に増えたことが主因だ。EV電池事業は、原材料価格の下落に伴う値下げで売上高は前年同期と比べて135億円減った。

 主納先であるテスラの4~6月期の新車販売は38万4122台(同13.4%減)。1~3月期(同12.9%減)に続いて2四半期連続で2桁マイナスだ。「サイバートラック」の失敗、新型車不在に加え、トランプ政権で要職を務めたイーロン・マスクCEO(最高経営責任者)の政治的な言動に対する反発で不買運動も起きた。経営を下支えしてきたカーボンクレジット収入も環境規制の後退で目減りが必至だ。

 もっとも、エナジー社のEV電池を製造する北米工場の4~6月期の販売量は10.1㌐㍗時で、前年同期と比べて1.4㌐㍗時増えており、テスラ不振の影響は限定的だ。7月14日にはカンザス州で米国2拠点目となるEV電池工場の開所式を開き、円筒形「2170」セル(単電池)の量産を開始した。

 和仁古CFOは「電池の納入先のクルマが伸び悩んでいても、生産数量は上がっている。地産地消で電池を生産していることが評価され(発注量を)増やしてくれている」と、EV電池の販売数量は今後も伸びると予想する。米中摩擦でテスラが調達先を中国から米国にシフトしていることも背景にあるとみられる。

 それでも先行きは不透明だ。テスラの不振が長引けばエナジー社も無縁ではいられなくなる。

 トランプ政権はIRAを修正し、EV購入に際し、最大7500㌦(約113万円)を税控除する制度を9月末に打ち切る。電池の生産・販売に対する補助金は継続されるが、テスラ車の販売が落ち込めば、電池の販売量とともに補助金も減る。

 エナジー社の通期業績見通しは据え置いたものの、EV電池の「足元の見通しは軟化せざるを得ない」(和仁古CFO)状況だ。

 量産を始めたカンザス新工場は、年産32㌐㍗時のフル生産時期を26年度末から「未定」に変更した。和歌山工場(和歌山県紀の川市)で生産予定の高容量の新型「4680」セルは昨年9月に量産準備を整え、25年度末の供給に向けてテスラが電池を最終評価中だ。一方で、テスラは韓国LGエナジーソリューションから低コストで安全性の高いリン酸鉄リチウム(LFP)電池を43億㌦分調達するもようで、販売競争も激化している。

 エナジー社は、国内ではスバルと28年度から円筒形リチウムイオン電池を製造する合弁工場を群馬県大泉町に建設するほか、マツダが山口県に新設する電池の組立工場向けに2170セルを供給するため、大阪府にある工場の生産能力を増強する計画だ。テスラ依存度を引き下げ、電池の供給先を広げることでリスク分散を図る。もっともスバル、マツダとも米国が事業の柱で、スバル、マツダ向け電池事業が伸びるかどうかは、米国市場でのEVの売れ行きにかかっている。

 かつては電池事業の売上高目標を「30年度に3兆円超」とし、パナソニックHDの基盤事業として開発や投資にまい進してきたエナジー社。EV市場の成長率鈍化や主力市場での補助金終了、競合との競争激化などを前に戦略の抜本見直しを迫られる。

(編集委員・野元 政宏)