薄くて軽く、折り曲げることもできる
アイシンが自社工場で実証中のペロブスカイト太陽電池

 次世代太陽電池と期待されている「ペロブスカイト太陽電池」の特許出願で、中国の勢いが増している。特許の出願群を示す「パテントファミリー(PF)」の出願件数をみると、2010年代前半は日本勢が優位性だったが、10年代後半から中国勢が猛追し始め、09~22年の総出願件数の5割以上を中国勢が占めた。政府は、日本発のペロブスカイト太陽電池を世界に広めたい考えだが、国際競争力の維持に向けて正念場に差し掛かっているようだ。

 ペロブスカイト太陽電池は、主流のシリコン系太陽電池に比べて薄くて軽いなどの特徴を持つ。生産工程が少なく、大量生産に向いているため、低コスト化も期待されている。軽くて折り曲げられる特性を生かし、現在、開催中の大阪・関西万博に設置されているバス停の屋根にもフィルム型が搭載されている。

 自動車関連でも、トヨタ自動車が京都大学発のスタートアップと共同開発を進めるほか、アイシンや豊田合成、日本ガイシなども開発やスタートアップへの出資を通じ、実用化に挑戦している。トヨタは、30年までに電気自動車(EV)のルーフに搭載することを目標に掲げている。

 ペロブスカイト太陽電池は、09年に桐蔭横浜大学の宮坂力特任教授が発明して以降、関連特許の出願件数は日本が首位を独走していた。しかし、13年に中国がPFの出願件数で首位に立ち、16年には年間の出願件数が400件を突破。以降、毎年のように出願件数を伸ばし、22年には約1300件と、全出願件数の9割ほどを占めた。一方の日本は、16年以降、年間の出願件数が100件前後で推移しており、中国勢に差をつけられているのが現状だ。

 企業別で見ても、09~22年の間の日米欧中など主要国へのPF出願件数でトップとなったのは中国の海洋王照明科技で、上位20社のうち11社を中国企業が占めた。日本企業では、三菱化学(3位)や住友化学(11位)、積水化学(12位)、パナソニック(17位)などがPFの出願に積極的だが、上位20社のうち日本企業は6社にとどまった。中国勢はすでに量産化に着手しており、シリコン系太陽電池のように市場シェアの拡大を急いでいる。

 日本政府は、6月にも改定する「経済安全保障に関する産業・技術強化基盤アクションプラン(行動計画)」で、ペロブスカイト太陽電池を含む5分野において、政府主導で標準化や知財戦略の策定などに取り組む方針を盛り込む。特にペロブスカイト太陽電池の主要材料であるヨウ素は日本が世界シェアの3割を握っており、サプライチェーン(供給網)確保の点でも利点があるとしている。

 日本政府としては、本格普及が見込まれる30年以降に向け、早期に技術や知財の囲い込みを進め、ペロブスカイト太陽電池市場で世界をリードしたい考えだ。