会見で陳謝するキャロン会長(右)ら経営幹部
「技術で勝っても事業で負ける、という典型」との指摘も(JDIの試作品)

 経営再建中のジャパンディスプレイ(JDI)は、経営トップの辞任と人員削減、車載事業の切り出しなど事業構造の見直しを発表した。業界に詳しい早稲田大学ビジネススクールの長内厚教授は「技術で勝っても事業で負ける、という典型になってしまった」と指摘する。〝日の丸ディスプレー〟の試練は続く。

 ソニーと東芝、日立の中小型液晶事業を統合し、政府主導で設立されたJDI。産業革新機構(INCJ)の出資も得て、2012年に国策企業としてスタートを切った。初期の主力顧客はアップル。「iPhone(アイフォーン)」向け液晶パネルの供給で一時は堅調な業績を保った。

 しかし、アップルが液晶から有機EL(OLED)に調達部材を切り替えると雲行きが怪しくなる。開発・生産で巨費を投じた韓国勢に劣後して業績が悪化。3社の技術や生産体制には重複もあったが、構造改革も後手に回った。政府系ファンドであるINCJは、筆頭株主として長年にわたり支援を続けてきたが、ガバナンス(組織統治)や経営路線の変革を主導できたとは言い難い。コロナ禍や半導体の調達難も経営の足を引っ張った。

 苦境のスマートフォン市場に見切りをつけ、高い品質や耐久性が求められ、需要も拡大中の車載ディスプレー市場にJDIは活路を見いだそうとする。しかし、成長市場だけに競合がひしめき、特に中韓勢とは厳しいコスト競争を強いられている。25年3月期の純損益は782億円の赤字。11年連続の純損失だった。黒字化は未だ見通せない。

 新技術には一定の評価があるJDI。近年では、次世代OLED「eLEAP(イーリープ)」や、高性能バックプレーン(背面基板)「HMO」、車載向けの新技術などを相次ぎ発表している。しかし、いずれも商用化や収益への貢献には時間がかかる。次世代OLEDは自社での量産自体を諦めた。

 今後は車載事業に力を入れるとともに、先端半導体分野への事業転換も図るという。しかし、これらの新事業が収益化するまでには時間がかかるとみられ、短期的な業績回復は難しい。

 退任するスコット・キャロン会長兼最高経営責任者(CEO)は、筆頭株主の投資顧問、いちごアセットマネジメントの創業者だ。しかし、その経営手腕や人脈を駆使しても経営再建はかなわなかった。直近の株価は10円台と、2014年の上場時に比べて50分の1だ。JDIの全株式を売却したINCJは、累計で約4600億円にも及ぶ投融資のうち、1500億円あまりを失った。

 車載事業を切り出すことについて、会見では「グッドカンパニーとバッドカンパニーの切り分けではないか」との質問も出て、経営陣が否定する場面もあったが、その布石との見方は残る。

 同社は、台湾・鴻海(ホンハイ)精密工業系のディスプレーメーカー、イノラックス(群創光電)と提携し、次世代OLED技術の事業化を図っている。「鴻海の資本を呼び込めないか」という声も社内にはあるが、縮小均衡を乗り切り、反転攻勢に出られるかは不透明だ。

 長内教授は「一時期に模索された外資の傘下に入っていれば違う道があっただろう」とも指摘する。INCJの志賀俊之会長兼CEO(最高経営責任者)は「民間企業がリスクをとって投資を進めないと産業は育たない」と公的ファンドの限界も指摘する。

 現在、〝日の丸半導体〟としてラピダス(小池淳義社長、東京都千代田区)が北海道千歳市に工場を建設中。自動運転車などへの搭載が見込まれる2㌨㍍(ナノは10億分の1)級の国産半導体を27年に量産する計画だ。ただ、2㌨㍍級は台湾積体電路製造(TSMC)や韓国のサムスン電子も量産計画を持つ。JDIの教訓は生かされるか。

(編集委員・山本 晃一)