21年暮れのEV戦略説明会は開発中のEVを披露し、話題になった

 トヨタ自動車が2026年に150万台と見込んでいた電気自動車(EV)販売を〝下方修正〟する。26年まであと1年を切る中、各国の政策や実需を踏まえた措置だ。マルチパスウェイ戦略のもと、粛々と電動化対応を続けてきた同社。EVが売れなくても業績への影響は皆無だが、テスラや比亜迪(BYD)など、電動化・知能化の先行組がEV市場を席巻していることも確かだ。反撃の狼煙(のろし)はいつ上がるか。

 EV戦略の見直しは今に始まったことではない。トヨタはこれまでも「150万台は目標ではなく、需要動向による車両生産の構えを示す〝基準〟だ」と繰り返し説明してきた。このため、仕入先に対しては24年に100万台、25年に80万台と、過去2度にわたり、この基準を引き下げる方針を通知した。

 一方で、トヨタは「最後に決めるのは顧客であり、(環境車の)どれが来ても対応できる構えを取る」(宮崎洋一副社長)ことを理由に基準を変えたかどうかを明らかにしてこなかった。ところが、8日に開いた決算会見で佐藤恒治社長は「各地域でEVに対する実需のペースのリアリティーが見えてきているタイミングだ」とし「150万台」の見直しに踏み込んだ。

 トヨタがEV事業の数字を初めて示したのは21年暮れの「EV戦略説明会」だ。当時はEVブームの真っ只中。欧米メーカーが意欲的な投資額や販売目標を発表する中、ハイブリッド車(HV)を主軸とするトヨタは「EVに出遅れたからHVにしがみついている」とメディアや環境団体などから攻撃されていた。

 こうしたレッテルを払拭しようと、説明会には16台ものEVを一気に披露し、30年に350万台とする販売目標を打ち出した。「26年150万台」は、その中間目標として23年4月に示したものだ。

 ただ、中国をのぞく世界のEV販売は23年暮れから鈍化し始めた。こうした状況を踏まえ、トヨタは26年3月期のEV販売が約31万台にとどまるとしている。仕入先に示す「26年80万台」も難しい状況だ。米国では、ケンタッキー州の工場で25年中に予定していたEV生産が26年にずれ込む。26年の予定だった次世代EVも27年に延期する方向で調整に入った。開発期間を延ばし、EVの完成度を高める狙いもあるとみられる。

 もっとも中国市場は別で、単独資本でレクサスのEV生産に乗り出すなどEVシフトを加速させる。3月に発売した「bZ3X」では、電池やモーターといった基幹部品を現地調達してコストを大幅に引き下げ、200万円台の価格を実現した。ADASでも現地のスタートアップ、モメンタ製を搭載し、知能化ニーズにも素早く応じた。

 業績は底堅い。26年3月期は営業収益(売上高)が48兆5千億円(前期比1.0%増)、営業利益は3兆8千億円(同20.8%減)を見込む。減益は2期連続だが、売上高とトヨタ・レクサス車の世界販売(約1040万台)は増える。EVシフトが裏目に出た欧米勢に対し、市場をにらんで投資判断をギリギリまで引き付けるトヨタのしたたかな戦略が際立つ。

 しかし、中長期で進む乗用車のEVシフトは不可逆的というのが今の見立てだ。乱戦模様とは言え、わずか30万台では世界トップメーカーの面目はまったく感じられないことも事実だ。それでも、仕入先の関係者からは「27年導入のコストパフォーマンス版バッテリーで200万円台の『カローラ』や『ヤリス』が出れば〝ゲームチェンジャー〟になるのでは」との声もある。「安全、長寿命、高品質、良品廉価、高性能をいかに高次元で両立させるか」(幹部)にこだわるトヨタ。EV市場でいつ、存在感を示すことになるのか。

(編集委員・福井 友則)