Q 今年は、自動車税制改正の〝表年〟と言われているけど、どういう意味?
A 日本の税制度は毎年末に政府・与党内で議論し、結論を「税制改正大綱」や改正法案の形にし、翌年の通常国会で成立させ、同年4月から実施という流れです。この中で、いわゆる「エコカー減税」は租税特別措置(租特)という、特別の定めのもとで運用されています。この期限が概(おおむ)ね2年なので、エコカー減税ができて以降、租特の見直し年を〝表年〟、それ以外を〝裏年〟と呼ぶことが定着しました。前回の〝表年〟は2022年だったので、本来は24年が〝表年〟のはずでしたが、22年当時はコロナ禍の半導体不足の影響で、新車納期が大幅に長期化しており、販売現場が混乱しないよう、エコカー減税を3年間、延長しました。これにより、改正議論も25年末に繰り越されたのです。
Q 議論のポイントは?
A 新しくなるエコカー減税がどうなるかも注目ですが、実はもっと大きな論点があります。「電気自動車(EV)時代の自動車税制はどうあるべきか?」というものです。
その前に、日本の自動車関連税制の歴史や仕組みを簡単に説明しましょう。
戦後の経済成長期に日本はモータリゼーション(自動車の大衆化)を迎えますが、困ったことに政府には資金がなく、道路網をどうつくるかが問題になります。そこで、高速道路は「有料道路」として料金収入で整備することにし、一般道は「道路整備で恩恵を受けるのは自動車ユーザー」という理屈で、さまざまな税金を新設して整備費用を賄うことにします。こうした税収を道路整備に充てることを義務付ける「道路特定財源」もできました。こうして、高速道路などの「高規格幹線道路」が約1万4千㌔㍍、一般道で約122万㌔㍍を超える立派な道路網ができました。
しかし、問題は道路網がほぼ完成したにもかかわらず、一向に減税されないこと。しかも「無駄な公共工事の温床」との批判から道路特定財源が08年度限りで廃止されましたが、道路整備名目で新設された税金はなくなりません。それどころか、政府・与党内には自動車関係の税収と道路整備を結び付ける主張がいまだにまかり通る始末です。つい最近も、ガソリン税(揮発油税)にかかる「当分の間税率(旧暫定税率)」の廃止による都道府県別の減収分が報じられましたが、これも財政当局による巧妙な世論操作の一環でしょう。本来、〝減収分〟などという言い方はおかしく、収入に見合った支出をすれば良いだけの話です。
自動車関税の税金は大きく「車体」「燃料」に分けられ、年間税収は約9兆円(24年度当初、消費税含む)と国の税収の約1割を担っています。このうち車体は約4.8兆円、燃料は約4.2兆円です。車両価格308万円の車を13年使用すると、約190万円の税金を払っている計算になります。車体課税に限ると、日本はイギリスの1.4倍、ドイツの3.4倍、フランスの9.5倍にもなります。
Q そんなに税金を払ってるの?
A 日本自動車連盟(JAF)のアンケート調査でも、自動車の税負担について「非常に負担に感じる」「負担に感じる」との回答が9割を超えることが常態化しています。この重い税負担が自動車の保有をためらわせたり、税額が安い軽自動車にシフトさせたりしていることは明白です。日本自動車工業会は、平均保有期間が平均で15年以上と長期化する中、減税で自動車の保有期間を仮に10年へと縮めると、国内市場規模が年間500万台から800万台に増えるとの試算を過去に示しています。
Q で、EV時代の自動車税制って、どういうもの?
A EVはガソリンを一滴も使いません。その分、燃料税収が減っていくことになります。われわれユーザーにとっては大歓迎ですが、政府・与党内では「EVにも一定の負担をお願いせざるを得ない」(自民党幹部)という主張が一般的です。また「エンジン排気量」という概念がないため、課税基準も新たにつくる必要があります。
日本自動車工業会(片山正則会長)は①取得(購入)時にかかる「環境性能割」を廃止し「消費税」に一本化する②保有課税である「自動車税」「自動車重量税」を一本化し、課税基準を「重量と環境性能」に切り替える―の大きく2点を求めていく考えです。後者は具体的に、パワートレインを問わず一律で車重をベースに課税額を決め、この課税額に二酸化炭素(CO2)排出量などの環境性能に応じた係数を掛け合わせ、税額を増減させるイメージです。①は税制の簡素化につながり②はEVにも課税できる新たな手法になります。この要望が通れば、車体課税分で年間3千億~4千億円規模の負担減につながると見られています。
Q 過去には「走行距離課税」が報じられたことがあったけど?
A 22年10月の政府税制調査会(首相の諮問機関)で財務省が議題に挙げたり、自民党税制調査会の議論の最中に一部新聞が報じたりしました。「走った分だけ課税する」という仕組みは一見、公平に見えますが、改ざん対策を含めた課税技術が相当、難しいと考えられるほか「税金を払いたくない」と、移動を手控えるような風潮が広まれば、経済の活性化にも逆行します。そもそも、世界的にも走行距離課税がうまくいっている事例はなく、現実的な課税手段とは言えないでしょう。しかし、今後の税制改正議論で再浮上してくる可能性はあり、警戒が必要です。
Q 結局、どんな自動車税制が理想なの?
A 問題はそこです。世界的に見て、自動車ユーザーの税負担が重いのは事実ですが、ではいくらが適正かという議論は政府・与党の誰も議論していません。また、税制改正の方向性を示す「税制改正大綱」には「受益者の広がりや保有から利用への移行等も踏まえ」という記述があります。役所の文書は分かりにくいので有名ですが、これは「電動キックボードなど多様化するモビリティや、自動車から得られるデータを用いたさまざまなサービスが普及すれば、自動車ユーザーだけではなく、そうした製品やサービスの利用者にも税を負担してもらうべきではないか」という意味です。いずれにしろ、歳入・歳出とも複雑怪奇な自動車税制を変えるには「EV化で税収が減るから何とか埋め合わせよう」という拙速な考えではなく、安定的な税収と国民のモビリティ(移動性)、カーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)、自動車産業の国際競争力維持など、多様な視点からあるべき姿をじっくり議論すべきでしょう。