鴻海精密工業グループの電気自動車(EV)事業の最高戦略責任者(CSO)で、元日産自動車ナンバー3の関潤氏は4月8日、日刊自動車新聞の単独取材に応じ、EVの設計や生産を受託する「CDMS」事業を日本で進める方針を示した。また、ホンダ、日産、三菱自動車の連携については、引き続き注目し、日産とも関係構築を図る可能性を示唆した。
東京都内で9日に開くEV事業の説明会に合わせて取材に応じた。関氏が鴻海幹部として日本メディアの個別取材を受けるのは今回が初めて。
説明会について関氏は「鴻海は認知度はあるが、会社の全体像、またEV事業で何をしようとしているか、日本できちんと伝わっていない。誤った扱われ方もしている。そこで、まじめにやっていることを広く知ってもらうことを目指した」と説明した。
関氏は同社の事業モデルについて、次の4つを大きな特長として挙げた。
(1)EVはエンジンという産業障壁がない
(2)過剰な生産能力、系列サプライヤー、時代遅れの技術といった「負の遺産」がない
(3)ICTのバックグラウンドがあり、ソフトウエア・デファインド・ビークル(SDV)やコネクテッドカーといった「車輪のついたスマホ」に対応できる
(4)決断が早く、方向転換を躊躇しないといったカルチャーがある
「あえてプレーンにして、自動車メーカーが個性を出したいところは、個性を出してもらうタイプなど、工夫している」といい、さらに、SDVで注目される電気/電子(E/E)アーキテクチャーや、電池、半導体など、エレクトロニクス企業の強みを説明。「リードタイム、コストは非常に自信がある。エンジンとトランスミッションはやらない。ICTのバックグラウンドで勝っていく」と展望した。
ホンダ・日産・三菱自との協業については、「我々は日本の自動車会社と一緒に仕事をすることに、大いに興味がある。その中で、3社の統合協議が報道され、そこに入っていくことに対して非常に興味がある」と述べた。
関係機関と話し合うために訪仏した関氏だが、その際の交渉内容はノーコメントとし、日本側での経済産業省などとの協議も、コメントを避けた。
ただ、日産が新体制になったことで「(話し合いの)敷居は下がった印象がある」との考えを示し、改めて関係構築を図る可能性を示唆。「先方(日産)が何を望まれるか。我々のコアビジネスはCDMS。その形態でいいとなれば、出資はしないし、もし出資してほしいということであれば、出資は当然検討する。工場などの設備取得もオプションになりうる。ただ、それはどの企業とのパートナリングでも同様だ」と説明した。
また、独ZFとの協業については「シャシーを手の内化するが、順調に進んでいる」とした。米エヌビディアについても「重要なパートナーで顧客。デジタルツインの技術は、EVの工場でも活用していく」と強調した。
(編集委員・山本 晃一)