ホンダと日産自動車の経営統合協議が決裂し、日産ルノーとのパートナーシップを模索する台湾・鴻海(ホンハイ)精密工業に改めて注目が集まる。12日には、鴻海の経営トップがルノーとの接触を公式に認めた。鴻海と連携する米エヌビディアらテック大手の動向も注視される。
鴻海の劉揚偉董事長(会長)は12日、地元メディアの取材に「買収ではなく提携が主な目的だ」と言及。ルノー側との接触を認めつつ「株式を取得することは私たちの主要な目標ではない」とした。
同社は開発から製造までを一貫して担う「CDMS(コントラクト・デザイン・マニュファクチャリング・サービス)」を手掛ける。劉会長は「日本の自動車メーカーとも接触している。日産やホンダもそうだ」と強調。独自ブランドではなく、あくまでデザインや製造を受託する方針。提携に必要なら株式を取得する考えも示した。
劉会長はまた、電気自動車(EV)に関する何らかの進展を今後1~2カ月以内に発表する可能性を示唆した。ただ「日産との話し合いとは無関係」としている。
現地報道によれば、動きが本格化したのは昨年後半から。劉会長や、EV事業を率いる関潤氏らのチームが関係者と接触し、ホンダはそうした鴻海の関心を察知して経営統合の動きを加速したとみられる。鴻海側への意識を公式には否定していたホンダ側も、統合見送りが決まった今は「鴻海の動きがあったから統合に動いた」(幹部)と明かしている。
地元メディアは、こうしたホンダ・日産の協議を見守ってきた鴻海の立場を指摘。日台の友好な関係も背景に「コミュニケーションを通じて、経済産業省や日産、ルノーなどからの理解や支持の広がりを期待している」と、いわば〝熟柿〟を待ち、円満な交渉を優先していると分析する。
実際、関氏も鴻海の広報担当者も、取材にコメントを控えるなど表立った動きはとってこなかった。そうした中でも関氏は昨年来、ルノー側との協議に渡仏し、日本でも関係者と折衝しているようだ。
伊藤忠総研の深尾三四郎氏は「米テスラのように、AI(人工知能)活用などでソフトウエア・デファインド・ビークル(SDV)を開発し、リカーリング(循環型)ビジネスを進めるのが世界の潮流。だが2社連合ではそこが描かれず、共同開発の時間軸、スピード感も米中勢と比べて遅かった」とみる。
それだけに今回の統合見送りには驚きはなく、主戦場である北米ではEVかどうかより、SDVで収益を挙げる事業モデルが問われ、ホンダもその点では今後を楽観視できないとみる。米ゼネラル・モーターズ(GM)との連携の可能性も残るが、ホンダとしても別のパートナーを探る中でホンダ・日産・鴻海で組む方向もささやかれる。
SDVでカギを握るテック大手の動向にも関心が集まる。代表格はAI半導体最大手の米エヌビディアだ。
鴻海とエヌビディアは協業関係にあり、生産のデジタル化やAIを活用したEV開発などを打ち出す。エヌビディアの自動車向けSoC(システム・オン・チップ)を搭載したプラットフォームの組み込みも進めている。
こうしたエヌビディアとの協業を鴻海が生かせれば、日産やホンダとの関係で、次世代車開発や次世代生産システム構築ができる可能性がある。走行車両から得られるデータを使ってさらに設計・開発を進めるといった事業モデルだ。
ただ、鴻海が傘下に収めたシャープが必ずしも順調でないことや、劉氏が中国に近いとされていることが経済安全保障上で問題になる可能性も指摘されている。ホンダ・日産の経営統合見送りで次の動きが模索される中、テック大手が食指を動かす可能性もありそうだ。