三菱自動車から電気自動車(EV)生産を受託する台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業。9日には東京都内でEV事業の戦略説明会を開くなど、日本でも受託事業の開拓に本腰を入れる。EV設計や生産を請け負うCDMS(設計・製造受託サービス)モデルを掲げる同社だが、車載電池や半導体も得意だ。EVの性能や使い勝手は、こうした基幹部品がカギを握る。これらの強みも生かし、顧客の獲得を目指す。
戦略説明会には、同社でEV事業を率いる日産自動車出身の関潤氏が登壇。自動車や関連業界などを招き、事業の狙いや方向性などを詳しく話す。三菱自との関係は、ホンダ・日産自動車の協議とは別の流れで進んでいたもので、近く正式発表する見込みだ。鴻海としては、戦略説明会のような情報発信も通じ「オープンなEVビジネスの構築を目指す」としている。
同社事業の中核であるスマートフォンなどの電子機器類は、トランプ米政権の関税政策の影響や、利益面などで課題が指摘される。その意味でも、今回の三菱自を皮切りに顧客獲得を進め、EVの受託製造を新たな収益の柱とする構えだ。
その際の強みの一つは、車載電池や半導体などの技術蓄積にある。鴻海は2022年、南部の高雄市に車載電池の研究開発・量産のための拠点を開設すると発表。約60億台湾㌦(約270億円)を投じ、基幹部品となる電池の内製化を目指している。3月半ばの決算発表では今年の第1四半期の量産開始を発表した。
同社が力を入れるリン酸鉄(LFP)系のリチウムイオン電池は、三元系に比べて性能がやや劣る分、コストや安全性、寿命などの点で優れているとされる。同社が強みにするのは、材料から単電池(セル)、モジュール、パックまで一貫して手掛けること。同社が主導する「MIH」コンソーシアムへの供給などが見込まれる。
次世代電池の筆頭である全固体電池も研究開発を急いでいる。28年には90%までの急速充電を5分でできる水準を目指す。昨年、東京でのイベントに登壇した関氏も、高密度化と急速充電のバランスを踏まえつつ、充電速度を上げるなどすることで「ペイン(課題)を減らせる」と語った。
エレクトロニクス企業の強みを生かし、半導体も〝手の内化〟を進める。次世代パワー半導体である炭化ケイ素(SiC)領域を強化しており、傘下の半導体設計会社である能創半導体(パワーX)が中心となって取り組む。独インフィニオンテクノロジーズとも組み、インバーターや車載充電器など車載用高出力アプリケーションで、SiCの実装を進める。ステランティスとも車載用半導体の合弁会社を設立するなど、〝全方位外交〟で事業を展開する。
EV市場は踊り場に差し掛かったが、鴻海のような受託製造事業者にとっては逆に商機とも言える。電動化投資のタイミングを見直す自動車メーカーが、当面の規制対応のため同社にEV製造を任せる可能性が出てきたからだ。先行きが注目される。