台湾・高雄で量産予定のEVバス
オンライン会見する劉会長

 ホンダ・日産自動車の統合協議で注目を集めた台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業を中核とする鴻海科技集団(フォックスコングループ)。電気自動車(EV)シフトを追い風に「CDMS(設計・製造受託サービス)」の事業モデルでゲームチェンジャーを目指す。スマートフォンやゲーム機で確立したCDMSはEVでも通用するか。

 「ADAS(先進運転支援システム)やIVI(インビークル・インフォテインメント)などの車載エレクトロニクス分野で出荷台数は100万台を超えた。日本メーカーとの提携についても、皆さまから高い関心を寄せていただいている」。14日にオンラインで開いた2024年12月期決算説明会で、劉揚偉会長は手ごたえを語った。劉会長はまた、日本メーカーとの契約が1~2カ月内に決まるとの見通しや、車載電池の量産を25年第1四半期から始めることを説明。社名は明かさなかったが「中東の自動車メーカーと協力し、スマートコックピットや電気/電子アーキテクチャーの開発に取り組んでいる」とも語った。

 鴻海は、3つの主要事業と3つのコア技術を展開する「3+3」計画を打ち出す。主要事業はEV、デジタルヘルス、ロボット。コア技術は人工知能(AI)、半導体、次世代通信のことだ。これらを掛け合わせることで事業領域を広げていく。

 EVでは、3段階の成長戦略を描いているとされる。まず①プラットフォーム開発や量産能力の実証、次いで②大手自動車メーカーからの受注と知名度の向上、その上で③鴻海の設計やプラットフォーム、主要システムなどの世界展開―というものだ。EV事業を率いる関潤氏は昨年、受託生産に加えて、プラットフォームやモジュール(複合部品)、充電関連など多様な製品ポートフォリオを提供できる点を東京でのイベントでアピールした。劉会長は「AIエージェントを活用して、ユーザー体験を高めたり、SDV(ソフトウエア・デファインド・ビークル)のエコシステム(生態系)を構築する」とも語った。

 新型EVも相次ぎ披露する。今回の決算発表でも、自社開発した「モデルC」を今年下期に北米で本格的に量産するほか、今年半ばには「モデルB」の量産、第3四半期には台湾南部・高雄のEVバス工場で認証取得を目指す方針を示した。こうした実績を踏まえ、第2段階に当たる大手自動車メーカーからの受注や知名度の向上を目指している状況だ。

 鴻海の描く事業モデルは、あくまでEVの設計や製造を黒子として支援し、市場投入までの時間や製造コストの削減といった価値を顧客であるEVメーカーに提供するもの。各国・地域の自動車産業政策や通商リスクなどの変動要因もあるが、台湾メディアは「自動車メーカーは負担や課題に直面しているが、鴻海は(逆に)こうした市場の変化の波を生かしていくのでは」と好意的に報じる。

 鴻海は拙速なEVシフトで財務が痛んだ欧州メーカーとも折衝しているとされる。日産など日本メーカーとの関係をアピールして目論み通り成長戦略の第2段階へと進むことができるか。日産OBでもある関氏の動向とも合わせて今後が注目される。

(編集委員・山本 晃一)