生き残りのカギとなる電動化戦略を説明する毛籠勝弘社長
長安汽車と共同開発したEV「EZ―6」

 規模を追求せずに自動車メーカーとして生き残る戦略をマツダが模索している。業界では中堅の同社は「一括企画」「ものづくり革新」などにより、限られた経営資源を有効に使って成長してきた。しかし、世界的なインフレや通商リスク、中国勢の台頭など、事業環境の変化は想定を上回る。同社は、中国系自動車メーカーの力も借りながら開発・生産体制をさらに進化させ、生き残りを目指す。

 電動化対応で同社は、国・地域ごとに適した電動車をそろえる「マルチソリューション戦略」を掲げ、電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHV)、発電用ロータリーエンジンなど、多様なパワートレインを開発中。今は「意志あるフォロワー」(毛籠勝弘社長)として主流となるパワートレインを見極めている段階だ。

 この戦略を取れるのは、最長で10年先の商品展開をあらかじめ設定し、すべてのモデルの車型構造を同質にして主要部品を共通化する「一括企画」や、複数モデルを効率的に混流生産する「ものづくり革新」により、多少の遅れはキャッチアップできるとの自信があるためだ。

 しかし、マツダが情勢を見極めている間、比亜迪(BYD)などの中国勢が割安かつ高性能なEVやPHVを短期間に相次ぎ開発し、母国市場にとどまらず、日系の牙城だったアジアでも猛烈に売り込み始めた。

 急速なインフレも懸念材料だ。マツダは、2022年から30年までに電動化に1兆5千億円を投じる計画だったが、部材や建設費などの上昇で、この額では狙い通りの成果が得られない公算が大きくなった。

 こうした状況に対処するため、マツダは戦略を見直す。中国勢への対抗では、合弁相手である長安汽車との連携を強化する。共同開発したEV「EZ―6」を欧州やアジアに投入するほか、SUVタイプのEVなど、30年までに4車種の共同開発も検討。車載電池は長安汽車との連携で投資額を抑える。開発面でも、強みの一括企画にEVなどの電動車を加える。「e―マツダ」と呼ばれる電動化事業本部も組織階層を減らし、環境変化に追随しやすくした。

 27年までに実用化するEV専用プラットフォームは、寸法や車型などさまざまな派生展開を見込んで開発する。複数のEVを共通プラットフォームで展開すると同時に、材料、構造の両面で進む電池の進化に対応する狙いもある。

 生産面では、得意としていたものづくり革新を進化させて対応する。テスラや中国勢は、数十点の部品をアルミで一体成形する新技術を採用したりしているが、投資余力が限られるマツダはそう簡単に追随できない。このため、サブラインで組み立て作業しながら移動するAGV(自動搬送機)など「固定しない設備」を展開する。工程数が異なるEVと内燃機関車を混流生産するためだ。こうすれば、保護主義的な動きに呼応して生産拠点を変更しやすい。

 マツダは30年ごろに年間160万台程度の世界販売を見込む。この規模で電動化と知能化に対応しつつ、再投資の原資となる収益を新車販売でひねり出す必要がある。競争力の源泉だった開発・生産手法をさらに進化させ、厳しい市場環境を生き残ることができるか。

(編集委員・野元 政宏)