【スペイン・タラゴナ=山本晃一】韓国・現代自動車グループのキアが日本市場に参入する。攻略の武器は、電気自動車(EV)用に開発した「電動スケートボードアーキテクチャー」だ。近距離の旅客や物流車両、キャンピングカー、福祉車両など多目的なEVとして、多彩な架装と価格、事業採算の両立を狙う。工場を持たないファブレス企業を含め、日本でもEVの開発・販売競争が激しくなりそうだ。
キアは、スペインのカタルーニャ州タラゴナで24、25の両日、メディア向けイベント「EVデー」を開催。EVの新たなグローバル事業戦略「プラットフォーム・ビヨンド・ビークル(PBV)」の量産車を発表した。
その柱の一つが、PBVの最初のモデルとなる中型EVバン「PV5」だ。専用プラットフォームの電動スケートボードアーキテクチャーは、モジュール化によりさまざまな用途の車体を柔軟に組み合わせることを可能とした。まずは「パッセンジャー(乗用モデル)」「カーゴ(貨物モデル)」を用意し、特殊な架装オプションを含むさまざまなバリエーションも追加する計画だ。
生産体制も刷新する。コンベアシステムとセル方式の両方を利用した専用工場を韓国に設置し、柔軟で効率的な生産プロセスを構築。架装などカスタマイズ車を生産する「コンバージョンセンター」も設立し、従来の多目的車の生産と比べて時間やコストの節減、廃棄物抑制などを実現する。当面の生産能力は15万台で、30年に25万台を目指す。
ソフト面にも注力する。韓国サムスン電子と提携し、サムスンが手掛ける家電などのIoT「スマート・シングス・プロ」と連携。利用時間に応じた車両冷蔵システムの調整や店舗設備との連動、店舗の在庫確認、セキュリティー管理など、企業活動でのさまざまな用途への対応を想定する。
PV5の主な用途としては、タクシーや「ラストワンマイル」の物流、キャンピングカー、送迎用の福祉車両などを見込む。EVバンは新興勢や中国メーカーが中心だ。キアとしては、顧客に最適化したEVを柔軟に提供できることなどを強みに、他社との差別化を図る狙いだ。
25年後半から韓国と欧州に投入する。カナダにも投入し、日本では26年に発売する予定。米国はトランプ関税などを踏まえて発売を見送る。価格は欧州では3万5千 ユーロ (600万円弱、税込み)を見込んでおり、日本での価格は検討している。
日本市場では、双日が販売代理店となり、アフターサービスを含めて展開する。現在、中型車に相当するEVバンはほとんどなく、特に法人向けでは潜在的なニーズがあるとみて、日本導入を決定した。
宋虎聲(ソン・ホソン)社長(CEO=最高経営責任者)はPBV投入について「電動化の動きをリードし続け、パーソナライズされたモビリティ・ソリューションを提供する」と自信を示した。
1999年に現代自動車グループ傘下となったキアは、韓国をはじめ欧米などで乗用車を中心に展開している。近年は個性的なデザインなどで販売を伸ばしており、2024年の世界販売は前年比0.1%増の308万9457台で過去最高を更新した。80年代にはマツダが資本参加するなど、日本でも輸入販売していた歴史がある。