金型取引をめぐり、下請代金支払遅延等防止法(下請法)違反として公正取引員会から勧告を受ける企業が相次ぐ。自動車業界が多く、18日には中央発條と愛知機械工業(和田民世社長、名古屋市熱田区)が勧告を受けた。金型の無償保管は20年以上前からすでに「違反行為」だ。公取委は「『金型は下請けが面倒をみるもの』という商慣行を、大企業が今も引きずっているからだ」と指摘する。
勧告を受けた2社は、自社に所有権がある金型や治具を下請事業者に無償で保管させていた。その数は400~600個。長いものでは約20年も保管を強いており、保管用の倉庫を新たに手当てした企業もあった。2社は勧告を受ける前から自主的に調査を始め、一部では不要と判断した金型の廃棄や回収を始めていたが、公取委の調査前に完了できず、今回の勧告に至った。保管費用として、中央発條は約572万円、愛知機械は約1925万円を支払った。
樹脂や金属といった素材の成形に用いられる金型は、補修部品を生産する必要があるため、新車用の量産終了後も一定期間は持ち続ける必要がある。以前は下請け企業が持つことが一般的だったが、補修部品の有無が人命に関わる場合もあり、サプライチェーン(供給網)も多層的な自動車産業の場合、金型をいつ廃棄すべきか曖昧で、金型数が増えるに連れて下請け企業の負担が増していった。
2004年の下請法改正で、発注側が金型保管にかかる費用を持つことが明記されたが、いまだに下請け側が費用を負担しているケースが少なくない。過去には、トヨタカスタマイジング&ディベロップメント(西脇憲三社長、横浜市港北区)や東京ラヂエーター製造なども、下請け事業者に金型の無償保管を強いたとして勧告を受けた。公取委によると、発注企業側の自発的な申し出件数も過去10年で496件あり、勧告は氷山の一角だ。下請け事業者に支払われた費用は総額で51億6040万円に上る。
法改正から20年以上、経過したにもかかわらず、こうした事例が後を絶たないのはなぜか。中央発條は「保管費用は部品の単価に含まれていると誤って認識していた」と発表資料で釈明した。公取委の担当者は「何らかの違反の認識はあった上で(下請けによる無償保管を)継続していたのではないか」と話す。中小企業庁の幹部は「ティア1(一次部品メーカー)からティア2(二次部品メーカー)に支払われていないケースもある。そうした状況の中で、さらに〝下流〟の事業者が費用の支払いを求めることはできないのでは」と推測する。
しかし、脱炭素やエネルギー高、人手不足などサプライチェーン全体として取り組むべき課題が増えている今、特に経営資源に乏しい中小・小規模(零細)企業に〝阿吽(あうん)の呼吸〟を求めることは限界に来ている。
政府がまとめた「自動車産業適正化取引ガイドライン」は、日本の自動車産業の取引慣行を「協調的投資促進型調達慣行」と名付け、一定の評価をする一方「自動車産業を取り巻く環境は大きく変わる。それに応じて取引の実態も変わり、望ましい調達の戦略も変わる」と指摘する。取引の適正化は中小企業対策として政府が旗を振っている側面が大きいが、長年の〝悪習〟を自発的に絶てないようでは、激変する自動車業界にも適応できず、電動化や知能化が進む中で、企業の持続可能性に黄信号が灯ることにもなりかねない。
(村田 浩子)