いすゞのステーションは箱型電池を左右同時に交換できる
いすゞはコンテナ内に交換設備と電池充電ラックを収めることで耐候性やコストを考慮
三菱ふそうは京都市内のアンプルのステーションを使って実証した
アンプルはバッテリーモジュールを交換する独自方式で乗用車にも対応する
NIOはEVと並行して交換ステーションの整備も進める(スウェーデンのステーション)
二輪車や小型モビリティではホンダの「モバイルパワーパックe:」が普及しつつある

 電池交換式の電気トラック(EVトラック)の実用化に向けた動きが活発化している。三菱ふそうトラック・バスは8月から4カ月間、京都市内でヤマト運輸の集配業務で実証実験を行った。将来的には電池交換式EVトラックの商業化とリースによる提供を視野に入れる。いすゞ自動車も、まずは藤沢工場(神奈川県藤沢市)で実証を始めた。電池交換式EVは航続距離などの課題に対処できる反面、交換ステーションの普及や初期投資といった課題もある。実用性や経済合理性をにらみつつ、メリットを生かせるか。多角的な検証が進む。

 三菱ふそうは米Ample(アンプル)と組んで実用化を目指す。今秋、ENEOS(エネオス)ホールディングスとヤマト運輸とともに、車両2台で約4千㌔㍍を走行する実証に取り組んだ。大きなトラブルはなく耐久性を確認できたため、今後も研究を進めていく。車両本体の費用から保険料、充電やメンテナンス費などをまとめて月払いできるリース商品の提供も視野に入れている。

 いすゞも自社開発の「Eビジョンサイクルコンセプト」の開発を進める。長期使用の耐久性や初期投資を抑えるため、20㌳コンテナ内に交換設備や電池の充電棚を収めた。専用の電池交換アダプターを備えた「エルフEV」を使い、10月から社内で実証を始めた。今後は国内パートナー企業とともに検証するほか、2025年度からはタイでも実証を行い、完成度を高めていく。

 国内の自動車保有台数のうち、EVが占める割合は23年度末時点で0・3%以下にとどまる。特に生産財である商用車は、短い航続距離と充電時間の長さが大きな課題で、車両価格の高さもあり普及が進んでいないのが実情だ。充電済みの電池に素早く交換できれば、ディーゼル車の給油時間と同等のダウンタイムで距離を問わず二酸化炭素(CO2)を排出せずに走ることが可能となる。

 さらに、電池を複数の車両で共有したり、蓄電池などで二次利用できれば、一度造った電池を無駄なく活用することができる。電池と車両の所有権や販売スキームを分ける「車電分離」も可能だ。車電分離を目指す日野自動車は「交換式など方式を限定するものではない」ものの、車載電池の規格標準化を提唱している。

 ただ、ユーザー視点で見れば課題も多い。現在の交換ステーションはいずれもガレージのように車体の前後左右を覆う形状で、一定の敷地面積が必要だ。費用もスタンド型の充電器と比べて高額になる。アンプルは乗用・商用問わず使えるが、ガソリンスタンドのように各地に設置されなければ利便性は高まらない。

 また、車載用電池は消防法上の「危険物」に当たる。エネオスHDは今回の実証にあたり、変電設備や消防用設備の設置を届け出たといい、「管理や許認可取得に相応の労力を投じることになる。当局と歩調を合わせたルールづくりを進めることが肝要」との見解を示す。

 乗用車では中国の上海蔚来汽車(NIO)が世界で2400カ所以上の交換ステーションを設置しており、浙江吉利や電池大手の寧徳時代新能源科技(CATL)とも協業している。二輪車ではホンダの「モバイルパワーパックe:」が日本でも普及しつつある。

 一方、商用車は、電池容量やステーションの展開規模、初期投資など負担が大きいにもかかわらず、二輪車や乗用車ように数は見込めない。交換式がEVトラックの課題を一挙に解決できる可能性はあるが、今後普及し、幅広いユーザーがメリットを享受できるのか。道のりはまだ見えていない。

(中村 俊甫)