スズキが小型SUV「フロンクス」を発売した。同社がインド生産車を日本で扱うのは2016年発売の「バレーノ」以来だ。販売が伸び悩んだバレーノの反省を生かして周到に準備を進め、1万台近い受注を得るなど好調なスタートを切った。今後も各市場のニーズを満たしつつ、過不足なくインドから車両を世界へと供給し続けられるかがカギとなりそうだ。
バレーノは4年で販売を打ち切った。日本の降雪地方で欠かせない四輪駆動車や、駐車時に便利な電動格納ミラーがなかったりと「日本が求める仕様とずれていた」(鈴木俊宏社長)ことがある。インド特有の砂ぼこりで車体に細かい傷がついたり、シート保護材の臭いが車内にこもるなど輸送上の課題もあった。
フロンクスは四輪駆動を設定し、日本では当たり前の先進運転支援システム(ADAS)も付けた。23年春の現地発売後、中近東や中南米など70カ国で販売してきたノウハウもある。鈴木社長は「工場で働く人、検査する人のレベル合わせを徹底し、基準合わせがグローバルでできてきた」と自信を示す。引き続き、どこの生産拠点であろうと同じ品質を保つ〝メード・バイ・スズキ〟を目指す。
スズキにとって、インドは乗用車シェアの約半分を握る重要市場であるとともに、近年は生産ハブ拠点としての意味合いが増している。
同社は、30年度にインド市場が年間600万台規模になると予想、今のシェアを守る形で販売を伸ばしていく考えだが、足元の現地生産能力は「市場の伸びに追いつくのは今の状況でやっと」(鈴木社長)とも。同社は30年度までにインドで年間400万台以上を生産する体制を整える考えだ。現地分の300万台を差し引いた100万台ほどが輸出余力となりそうだ。
インドからは、地理的に近い欧州をはじめ、25年末までに閉鎖するタイ工場からの供給分(フィリピンやベトナム、中南米など)の一部をカバーしたりする。日本へも、フロンクスを皮切りに電気自動車(EV)や「ジムニー」5ドアなどを供給する計画とみられる。
今後は、市場拡大が続くインドと、増える輸出仕向け地との供給バランスをどう取っていくかが課題になりそうだ。フロンクスは、インド最速記録となる発売後半年で累計販売20万台を達成したが、鈴木社長は「輸出向けをある程度、生産しているので(達成の)スピードを落としてしまった。本来であればもう少し早く達成できていた」と話す。
旺盛な現地需要に応えるのも重要だが、日本を含む輸出国への供給が滞っても長納期化に伴う機会損失や顧客満足の低下を招きかねない。大手と違い、主力の生産拠点が限られるだけに、サプライチェーン(供給網)も含め、いかに生産変動への追従性を高めていくかがスズキの新たな挑戦となりそうだ。
(藤原 稔里)