「保険対応が回らなくなる…」との懸念も(イメージ)

 損害保険大手4社による一連の不祥事で、大手損保が保険代理店への原則出向廃止などの業務改革を打ち出す中、自動車ディーラーでつくる日本自動車販売協会連合会(自販連、加藤敏彦会長)の会員から強い懸念の声が出ている。「人出不足の中、現場対応に支障が出て結果的に顧客ためにならないのでは」というものだ。政府では、保険業法等の改正に向け、金融審議会(首相の諮問機関)の議論が始まった。自販連としては金融庁と連絡を密にし、ディーラー業務に影響が出ないようにしたい考えだ。

 自販連には自動車ディーラー約1400社が加盟する。大半が保険代理店を兼務しており、損保と代理店をめぐる法令改正は通常の業務に直結してくる。

 自販連では9月26日に新車委員会(ディーラー社長17人で構成)を開いた。金融庁の幹部2人も出席した。一連の不祥事を踏まえ、金融庁は3月に有識者会議を設置し、損保の改革の方向性を盛り込んだ報告書を6月にまとめている。金融庁幹部は報告書のポイントを説明した上で、金融審議会の議題などについて解説した。自販連では7月ごろから金融庁と接触してきた。

 この新車委員会では、委員から損保に対する懸念の意見が複数出た。

 最も大きいのは損保からディーラーへの出向の見直しだ。「過度な便宜供与の一つ」とされたためだ。東京海上日動火災保険は原則、代理店への出向を数年以内に廃止する方針を明らかにした。他社も営業目的の出向は禁止するという。約250万件の情報漏えいがあったことも影響している。

 ただ、ディーラー側にとっては「損保の一方的な措置に見える」という。慢性的な人手不足の中、乗合代理店として複数社分の保険対応が回らなくなる恐れがあるという。ある関係者は「報告書では出向自体は否定していない。これまでお互い顧客のために協力してきたのに一方的だ」と話す。

 金融庁が4月に公表したデータ(23年3月末時点)では、大手損保4社の出向者は2370人。出向先は累計で1520社あった。保険代理店が75%(このうち自動車関連が36%)を占める。23年末からの行政処分等を受け、出向者の引き揚げは今春から始まっている。各社の内訳や最新の状況については4社とも開示していない。

 代理店手数料についても懸念の声が多い。6月の報告書では、大規模乗合代理店について、損害保険各社別の手数料総額等を開示することが提案された。透明性を高め、顧客の判断材料にしてもらうためだ。自販連からは「主な収入源の手数料の詳細を公開するのは、通常のビジネス上、極めて異例で顧客の誤解も招きかねない」という声が出る。

 また、あるディーラーの社長によると、6月頃、ある損保から手数料の引き下げを通告されたという。納得がいく説明はなかったようだ。一般的にディーラーは手数料に反映される「ポイント」(損保が決める)が最高ランクだ。「高すぎる」との声もあり、見直しの一環で行われたようだが「そもそも損保と代理店でしっかり協議・合意すべきもの。どさくさ紛れではないか」との意見もある。

 中小の代理店だと損保の力の方が大きく「優越的地位の乱用」のようなこともあるという。自販連は「金融庁と連携して不当なことがないように監視していきたい」としている。

 手数料ポイントの中で、販売量より、業務品質の方を重視していくことについては「大賛成だ」としている。

 また「自動車保険そのものが差別化できておらず、競争になっていないことが根本的な問題ではないか」という意見もある。「だからこそ、旧ビッグモーターのように便宜供与競争になった」という理屈だ。

 旧ビッグモーター問題では慣習としての「テリトリー制」が浮き彫りになった。損保各社に便宜供与を競わせ、各店舗で扱う社を事実上、1社に絞るものだ。このテリトリー制については、金融庁の報告書に書かれていないことから、現時点では自販連内で議論にはなっていないという。ただ、制度が変わることで、「資金的、人的負担が増えることは困る」というスタンスのようだ。