大手損害保険会社の一連の不祥事をうけて、傘下に三井住友海上火災保険とあいおいニッセイ同和損害保険の2社を持つMS&ADインシュアランスグループホールディングスは9月17日、業界の商慣行の「テリトリー制」を見直す方針を明らかにした。舩曵真一郎社長が同日の投資家向け説明会で表明した。この慣習は大規模乗合損保代理店を兼務する自動車ディーラーが、損保を競わせて各店ごとに商品を扱う損保を事実上1社に絞るもの。その地位を獲得するために大手損保がディーラーに過度な便宜供与や忖度をし、不祥事の原因の一つになっていた。
テリトリー制の見直しを表明するのは大手損保で初めて。テリトリー制を採るかどうかは原則的にディーラー側の判断になるため、MS&ADではディーラー側の理解を得た上で商慣習を廃止したい考えだ。
旧ビッグモーター問題では、大量に保険を販売してくれる代理店でもあった同社の店舗のテリトリーの地位を多く獲得するために、同社の工場に問題があっても見て見ぬふりをして入庫紹介をしたり、出向者を出して手伝ったりしていた。テリトリー制と過剰な便宜供与は表裏一体で、結果的に保険契約者の利益を後回しにしていたと金融庁が問題視していた。
また、大手損保4社は今年8月末、約250万件の情報漏洩があったと公表した。ディーラー側が保険契約情報の管理を損保側に「丸投げ」した面もあるが、テリトリーを競っていた損保側がそれを許容していた面もあった。
MS&ADでは、不祥事のリスク要因を排除するためには、テリトリー制を見直すしかないと判断した。
テリトリー制については、日本損害保険協会の城田宏明会長(東京海上日動火災保険社長)は7月1日の専門紙向けの会見で「ただちに否定されるものではない」としていた。1社に絞ることで詳しい商品説明ができることをメリットにあげた。ただ、保険業法294条で定められた(1)その社を選んだ理由、(2)ほかの社の選択肢もある、ということをきちんと顧客に説明していない例もあり、自社の実態把握を行う方針を示した。業界の課題とするかは「自社の実態を把握した上で考える」とした。
損害保険ジャパンについては、テリトリー制についての具体的対応は公表していない。
この問題とは別にMS&ADは、三井住友海上とあいおいニッセイ同和の2社態勢を継続するか、合併など再構築するかの判断が必要であることも明らかにした。判断基準として(1)事業費率に裏付けされた価格競争力、(2)資本を支える利益創出力、(3)他社を凌ぐ商品・サービスの提供機動力、を挙げた。
(編集委員・小山田 研慈)