鉄鋼メーカーは鉄の一体化でギガキャストに対抗する(写真提供:日本製鉄)
リョービが導入を予定する6千㌧級ダイカストマシン
ギガキャストを用いたテスラ「サイバートラック」

 電気自動車(EV)の製造手法としてアルミ大型一体鋳造技術「ギガキャスト」が注目されている。コストや汎用性、補修性など課題も多いが、何枚もの鋼板をプレスし、溶接して車体を造る長年の製造手法に新風を吹き込んでいることは確かだ。骨格部品の主流だった鉄鋼業界は、超高張力鋼板(スーパーハイテン)を用いた車体部品の一体化に取り組むなど、ギガキャストへの対抗策を練る。EV車体の最適解は何か。

 「中国では型締め力1万6千㌧級のダイカストマシンを導入する企業も出てきた。軽自動車のアンダーボディーを一体でつくれるほどの性能だ」。ギガキャストに詳しい日原技術士事務所の日原政彦所長はこう話す。中国では、浙江吉利汽車(ジーリー)や小鵬汽車(シャオペン)といったメーカーがすでに量産車にギガキャスト技術を用いる。多いものでは100点以上の部品からなる骨格部品を一気に鋳造できるギガキャストは、中国製EVの武器である低価格と開発サイクルの短縮に一役買っている。

 日本でもトヨタ自動車、ホンダ、日産自動車やティア1(一次部品メーカー)がギガキャストの導入に向け検討を進めているが、課題も多い。

 まずはコストだ。従来製法と比べると、部品点数が圧倒的に少ないギガキャストは加工費を抑えられるが、大型のダイカストマシンや金型が必要になる分、初期投資はかさむ。

 既存の工場やサプライチェーン(供給網)などのレガシー(遺産)を持たない米テスラや中国勢は工場をゼロから作る「グリーンフィールド投資」で、鉄鋼で骨格部品を生産する通常の工場と比べ「設備投資を3分の1ほど抑えられる」(JFEスチール・横田毅自動車鋼板セクター部主任部員)という。しかし日本メーカーの場合、内燃機関車を製造してきた工場と供給網がすでにあり、ギガキャストの導入にはスペースを含む工程や供給網内の調整が要る。

 ギガキャスト自体も決して万能ではない。素材としてのアルミは鉄より伸びにくく、剛性は鉄の3分の1ほどにとどまる。強度や剛性を出すには厚くすれば良いが、そのぶん重量がかさみ、衝突時に割れる可能性もある。6千㌧級のダイカストマシンの導入を進めるリョービのダイカスト企画開発本部・新田真研究開発部長も「ピラー(支柱)など強度が求められる部位は難しい」と話す。

 アルミは補修も難しい。あいおいニッセイ同和損害保険は、各部品が大型化するぶん「(従来車のような)損傷箇所のみの修理ができず、ユニット単位での交換が必要になる。作業の範囲や時間が増えるため、保険料が増加する懸念がある」と見通す。コストと衝突安全性、補修性などをバランスさせる設計や製造技術の開発は道半ばだ。

 課題も多いギガキャストだが、部品点数の削減や高い生産効率に加え、従来のプレス→溶接→組み立て→検査という工程を組み替えたり、車体を分割して並行生産するなど新たな可能性を秘めていることは確か。EVシフトとともに、新製法として広がっていくことは間違いない。

 この流れに〝待った〟をかけたいのが、エンジン車の骨格部品でイニシアチブを握っている鉄鋼メーカーやプレスメーカーだ。

 「鉄の良さを生かした部品の一体化技術でギガキャストに対抗する」と意気込むのは日本製鉄で自動車鋼板商品技術室長を務める江尻満氏。同社は、リアフレームなどの部品19点を、ホットスタンプ(熱間プレス)を用いて1点にまとめた「リアアンダーモジュール」として取引先に供給する構想を練る。金型数や溶接工程が削減できるほか、スーパーハイテンを用いることで必要な強度も満たしている。スペインのプレス部品メーカー、ゲスタンプもホットスタンプで9部品を1点にまとめたドアリングをすでに量産している。

 JFEスチールは、冷間プレスを用いて、Aピラー(前部支柱)やレールアウター周辺部品の一体化に取り組んでいる。ホットプレスと比べると一体化できる部品点数に限りがあるものの、二酸化炭素(CO2)の排出やコスト面で有利とみる。

 アルミによるギガキャストと鉄鋼、どちらがEVの骨格部品で主流となるかはまだわからない。デロイトトーマツの花谷和彦シニアマネジャーは「求められる性能や品質などによって、適材適所で(鉄とアルミが)すみ分けることになる」と話す。しかし、生産技術は日進月歩。技術が進化すれば〝適所〟は増えていく。EVをめぐる素材の陣取り合戦は始まったばかりだ。

(村田 浩子)

 

【用語解説】ギガキャスト

 アルミ鋳造はエンジンのシリンダーブロックやトランスミッションケース、ホイールなどに広く用いられているが、金型を締め付ける「型締め力」は3千㌧程度だ。これに対し、ギガキャストは、型締め力が5千㌧級以上の大型鋳造設備(ダイカストマシン)を用いて製造する鋳造技術を指す。溶解したアルミを高圧で金型内に注入して一気に部品を鋳造成形する。100以上の部品を一体成形できる。「メガキャスト」と呼ばれることもある。