トヨタ自動車とスバル、マツダの首脳がそろって次世代エンジンの開発を宣言した。電気自動車(EV)販売が踊り場を迎え、電動化技術と組み合わせるエンジンの性能を高める重要性が増しているからだ。一部の自動車メーカーが〝脱エンジン〟に舵を切る中、3社が次世代エンジンを一斉に披露することで、開発と生産を続ける決意も部品メーカーに示す。
「言葉を選ばずに言うと、エンジンを世の中から排除するくらい厳しいものだ」―。トヨタ最高技術責任者(CTO)の中嶋裕樹副社長は、欧州連合(EU)の「ユーロ7規制」についてこう話す。欧州勢で「EV専業宣言」が相次いだ背景には、こうした厳しい規制を満たすより、一足飛びにEVへとシフトした方が経営効率が良いと判断したこともある。
ただ、こうした目論見は早くも狂い始めた。フォルクスワーゲンはEVの生産調整を強いられ、メルセデス・ベンツは2030年に新車販売のすべてをEVとする目標を撤回し、新エンジンの開発にも着手する。
世界最大のEV市場である中国でも、比亜迪(BYD)が驚異的なスピードでエンジン関連の技術を高めている。2003年に自動車事業に参入した同社はわずか5年後に初のプラグインハイブリッド車(PHV)を投入。BYD車を分解した自動車メーカーの幹部は「最大熱効率は41%に達していた。日本メーカーの量産エンジンのレベルと同等だ」と驚きを隠さない。そのBYDは3社の共同会見と同じ日、第5世代のPHVシステムを発表。航続距離は2千㌔㍍を超えるという。
もっともエンジンの技術水準は熱効率だけで決まるものではなく、前出の幹部も品質やつくり込みの粗さを指摘する。それでも〝擦り合わせ〟が求められるエンジンの性能を短期間で高めた事実に変わりはない。
世界初の量産ハイブリッド車(HV)「プリウス」を20年以上にわたって改良し、他を圧倒する燃費改善効果を持たせたトヨタをはじめ、エンジンと電動化技術の組み合わせについては日本勢に一日の長がある。ただ、EVブームの陰でこうした強みはかすみがちだった。
マツダの毛籠勝弘社長は「1社で『内燃機関を頑張る』と言っても、受け取る側からみると『本当か』と思われる」と漏らす。マツダはロータリー、スバルは水平対向と独自のエンジン技術を持つが、厳しくなる環境規制を個社で満たすのは至難の業だ。2社は資本関係を持つトヨタと足並みをそろえ、共通の課題については協力していく姿勢をともに示す。
今回の〝宣言〟は、エンジン関連部品を手掛ける部品メーカーに対するメッセージの意味合いもある。エンジン関連部品大手の首脳は「今、『内燃機関部品で新たに拠点を作る』と言ったら『なに?』って言われる」と自嘲気味に話す。別の部品メーカートップは「エンジン部品を止める企業が出てくると、中国メーカーが人材も含めてごっそり持っていってしまう可能性もある」と警戒する。
会見会場には3社のトップや技術担当役員だけでなく、経済官庁幹部の姿もあった。官民総出でエンジンサプライチェーン(供給網)を守り、混迷の度合いを増すパワートレインの開発競争に勝ち抜く決意がにじむ。
(福井 友則)