〇既存モデルと部品を共通化
ホンダは燃料電池車(FCV)の「CR―V e:FCEV」を2024年夏に市場投入する。新型車は外部から充電できるプラグイン機能を搭載し、水素ステーションが近隣にない場合でも安心して利用できるようにした。16年に市場投入したFCV「クラリティフューエルセル」は、水素ステーションが整っていないことや、リース料金の高さなどから販売は低迷、21年に生産を打ち切った。新開発の燃料電池スタックの採用や、ホンダの既存モデルとの部品を共通化してコストを抑え、FCV市場の開拓に取り組む。
新型FCVの心臓部である燃料電池スタックはゼネラル・モーターズ(GM)との共同開発で、両社の合弁会社フューエルセルシステムマニュファクチャリングの米国ミシガン州にある工場で生産する。ホンダはこの燃料電池スタックをオハイオ州にある工場で完成車に搭載して市場投入する。24年夏に日本、同年内に米国で販売する。
新型FCVの圧縮水素燃料をフル充填した場合の航続可能距離は約600㌔㍍だが、燃料がゼロになっても外部から給電できる車載用バッテリーを使って60㌔㍍走行することが可能だ。充電は普通充電のみに対応する。
燃料電池スタックは、クラリティフューエルセルに搭載した世代のものと比べてセルの発電効率を向上するとともに、電動エアポンプの消費電力を削減、セルの積層数を15%削減した上で先代と同等の出力を得ることが可能という。白金などの高価な貴金属の使用量を減らし、コストも3分の1に抑制できる。電動温度調整バルブの採用などで加湿量の制御を見直すことで、耐久性を2倍に高めた。
燃料タンクは材料の改良などでスペース効率を向上した。サプライヤーは開示していないものの、クラリティフューエルセルで採用した八千代工業からは変更したという。
〇燃料電池スタックを小型化
トヨタのFCVと比べてフル充填当たりの航続可能距離は短いが「燃料電池システムの出力アップではなく、出力を維持した上で小型化することを重視した」(上野臺浅雄パワーユニット開発責任者)という。燃料電池スタックを小型化することで、小型SUVであるCR―VをFCV化できた。新型FCVのサイズは全長が4805㍉㍍、全幅が1865㍉㍍、全高が1690㍉㍍で、全長以外はベース車とほぼ同等のサイズに収めた。
燃料電池スタック以外のパワートレインユニットは、ホンダの電動車に採用している部品をフル活用した。容量17.7キロワット時の電池パックはCR―Vのプラグインハイブリッド車(PHV)、モーターやギアボックスは中国で販売しているEV「e:NS1」と共通化した。
先代のFCVであるクラリティフューエルセルの顧客は大半が法人や自治体だったが、新型FCVのターゲットは環境意識の高い高所得者層で、販売台数の5割以上を個人ユーザーが占めると予想する。開発責任者の生駒浩一氏は「(EVの)充電時間の長さや冬場に航続距離が短くなるのを避けたい(電動車)ユーザーの需要が見込める」と期待する。
FCVはトヨタが「ミライ」、ヒョンデが「ネッソ」を販売している。これら競合のFCVに対してはプラグイン機能や、市場人気の高いSUVの使い勝手、デザイン性で「有利」と見る。新型FCVの価格は未定だが「リース販売を中心に考えている」という。ただ、クラリティフューエルセルと異なり、既存モデルをベースとすることで、コストの抑制を重視して開発するとともに、プラグイン機能を加えて燃料供給に対するユーザーの不安解消も図った。新型FCVは、水素社会の究極の環境対応車とされるFCVが市場に定着するかの試金石となる。