新機能はDSの全モデルで利用できる(写真は「DS3」)
「OK アイリス」の掛け声で運転しながらでも操作可能

 ステランティスジャパン(打越晋社長、東京都港区)が、生成AI(人工知能)「チャットGPT」を使用した車と対話できる機能をDSオートモビル車に実装した。3月以降に新規登録し、コネクテッドサービスを使用するユーザーが利用できる。乗員の呼び掛けに車が応答する機能は上級車を中心に普及し始めている。ただ、DSの新機能は最新技術のチャットGPTの活用で、対話の自由度を格段に高め、車と〝雑談〟ができるのが特徴だ。この機能は、新たな付加価値となるのか。記者が実際に体験してみた。

 空調の操作などを音声で行える機能は、すでに多くのブランドが導入している。これらのサービスは定型の音声コマンドに反応するもので、想定外のものには対応しにくい。一方、DSの新機能は車自体への干渉はしないものの、乗員の不定形の問いかけに音声で回答する。膨大なテキストデータを学習するチャットGPTを活用することで、長文でも論理的に破綻なく答えてくれる。

 記者はまず、「日銀の金融緩和が与える、円とドルの関係について教えてください」と尋ねてみた。すると、車が金融緩和政策の概要や目的を説き、「円の価値が下がり、ドルの価値が上がる傾向がある」とも教えてくれた。その後、記者の「円安になると暮らしにどのような影響があるのか」「自動車業界における円安のメリットは」といった質問にも答えてくれ、まるで車と会話しているようだった。

 天気予報といったリアルタイム情報への対応はサービス外だが、既存の情報を基に小説のあらすじや歴史的な出来事、さらには上司との付き合い方などにも答えてくれる。運転しながら、さまざまなアイデアを検討することに役立ちそうだ。

 一方、間違った情報を答える場面もあった。記者が「徳川家康のエピソードを3つ教えて」と尋ねたところ、答えの1つが「関ヶ原の戦いで豊臣秀吉の勢力を打ち破った」(実際には豊臣秀吉の死後に起こった)だった。

 誤情報を回答する危険性については、ステランティスジャパンも留意している。プロダクトマーケティング部プロダクトマネージャーDSの田村明広氏は「大前提としてこのような事態が起こることは顧客にも説明する」とし、「利用規約にも必ず正しい情報を提供するわけではない旨を盛り込んでいる」と話す。さらに、トラブルを抑えるため、医療分野などでは回答を制限する措置も施した。情報の正否の判断は、私的にチャットGPTを使用する際と同様に、自己責任となる。

 同社によると、チャットGPTを搭載した機能を全モデルで利用できるブランドは、国内ではDSが初という。実際、こちらの問いかけに車が滑らかに答える状況は新鮮だった。

 一方、車と雑談できることは新たな要素だが、これをどう付加価値につなげていけるかは未知数だ。田村氏は「仕事のサポートや生活のヒントを得る使い方もできるはず」と拡張性に期待する。今後、「全国の販売店で新機能のデモンストレーションを実施していく」ことで、認知向上に力を入れる方針だ。

(舩山 知彦)