混迷を極めた永守会長の後継者選び。岸田氏が永守会長の期待に応えられるかに注目が集まる(左から永守重信会長、岸田光哉副社長、小部博志社長)

4月にニデックの新社長に就く岸田光哉副社長は2月14日に開いた会見で、最優先課題として「車載事業の早期再建」に取り組む方針を掲げた。約2年と社歴は浅いながら、同社が車載事業の最前線と位置付けるドイツ・シュトゥットガルトなどで課題解決に取り組んできた。ニデックの車載モーター事業はeアクスル事業の不振で利益率が低下しており、収益力の強化は喫緊の課題となっている。会長である永守重信氏の後継者として車載モーター事業をどう立て直していくか、同氏の手腕が問われることになる。

新体制への移行にあたり、同社が重要視したのが創業者依存からの脱却だ。永守氏は一代で同社を2兆円企業に育てた剛腕が評価される一方、外部から招いた後継者候補が降りるたび、スムーズな事業承継ができるのか不安視されてきた。

会見に同席した永守氏は「私と小部(博志社長)君は創業メンバーとして命をかけて会社を大きくしてきたが、そういう時代は終わった。次はサラリーマンの社長として役割分担を明確にし、組織だった形で仕事をする」と話す。

岸田氏が評価されたのは、経営者としてのポテンシャルの高さだ。前職ではソニーでスマートフォン事業に長年従事し、プラットフォームの大変革期には事業再生にも取り組んだ。こうした経験から、「永守イズムを継承しながら強いリーダーシップを発揮できる」(指名委員会の社外取締役酒井貴子委員長)と判断した。岸田氏も「ニデックの文化を学び、良さを継承していくことは自分自身の使命」と決意を示す。

同社のeアクスル事業は、中国メーカーとのコスト競争の激化などで採算性が悪化。かつては成長市場と位置付けていた中国市場では不採算製品の受注を制限するなど、構造改革を進めている。岸田氏がどうアプローチしていくのか注目だ。

4月以降、永守氏は、4年間は代表権を持ち、M&Aには引き続き関わっていく意向を示す。一方で自身が会長を退くことについて「会社改革のチャンス」とし、「私も小部君も考え方が古い。DXやAIなど時代の変化にだんだんついていけなくなっている。後を引き継ぐ人には、自分たちが経験したものだけを伝えていく」と50年間の会社経営に一区切りをつけるとした。

(草木 智子)