グループ株は最適な事業のバランスが取れるようフォーメーションの見直しを進めていく」と語ったトヨタの宮崎洋一副社長(11月1日)

 トヨタ自動車とグループ各社が株式持ち合いの見直しに乗り出す。29日、トヨタと豊田自動織機、アイシンがデンソー株を売却すると発表した。トヨタはグループ各社の株を引き続き保有するものの、持ち分法が適用される20%程度まで出資比率を下げていく方針だ。グループを挙げて資本効率の改善を進め、電気自動車(EV)やソフトウエア開発など成長投資を加速させる。日本株の再評価にもつながりそうだ。

 トヨタは、9月末時点でデンソー株を24・2%(自己株を除く発行株式)保有しているが、今回の売却によって20%となる。売却額は時価で2900億円程度だ。11月の4~9月期決算会見で、宮崎洋一副社長は「グループ株は最適な事業のバランスが取れるようフォーメーションの見直しを進めていく」と語っていた。それからわずか1カ月でグループ最大企業のデンソー株にメスを入れた。

 豊田自動織機は、デンソー株の保有比率が9・3%から5・3%に、アイシンは全株を売却し1・7%からゼロにする。また、デンソーも同日、政策保有株式を減らすことを発表した。「時期は未定」としながらも、豊田自動織機とアイシンの保有株の一部を売却する方針だ。デンソーが持つ政策保有株の銘柄は5年前の44から今では18にまで減った。グループ中堅の東海理化は、デンソーが同社株の売却意向を示したことを受け、自己株式の公開買い付け(TOB)を発表。トヨタグループでは、アイシンやジェイテクトも持ち合い株をゼロにする方針をすでに示している。

 トヨタグループは、源流である豊田自動織機から自動車部が立ち上がり、その後、各部門を分社化してきた歴史がある。こうした背景や買収防衛策として進めてきた株の持ち合い関係を見直すタイミングとして、グループ全体で高まった競争力がある。

 トヨタによると、グループ全体の時価総額は61兆円にのぼり、09年比で3・4倍になった。さらに24年3月期の各社の業績は車両生産の回復や円安などにより、軒並み過去最高を更新する見通し。業績が好調な今のうちなら、自己株式の取得など株式価値を毀損(きそん)せず円滑な見直しが可能になる。

 また、グローバルに投資を呼び込む狙いもありそうだ。とくに日本企業特有の株式持ち合いを減らすことによる資本の効率化は、海外投資家にとって好材料と受け止められる。東京証券取引所も上場企業に対してPBR(株価純資産倍率)1倍割れ解消に向けた資本効率の改善を求めている。東海理化の篭橋榮治収益改革本部長は、持ち合い株を減らす背景について「東証のレターや金融庁の後押しがあった」と明かす。

 グループで持ち合い株を減らしても、トヨタを中核としたグループの関係性への影響はないと見られる。トヨタは株売却後も20%ほどの出資比率を維持し、持ち分法適用会社における筆頭株主の地位を保つ。今回、売却を決めたデンソーは、電動化やソフトウエアに関連する製品を多く手がけており、トヨタが次世代車を開発する上でこれまで以上に重要な役回りを担う。経理本部の山本正裕本部長は株売却によって「さらにトヨタグループが強くなっていけるように成長資金に回していく」と話す。

 奇しくも世界的な燃料高で日本勢が強みとするストロングハイブリッド車(HV)や、派生車種であるプラグインハイブリッド車(PHV)の販売が伸び始めた。「時代遅れの技術」「ガラパゴス」どころか、これから本格的な収益貢献が期待できるフェーズに入る。こうしたタイミングで日本株の評判を実力値以上に下げていた持ち合いの解消がトヨタグループ主導で進めば、日本経済にとっても貴重な好材料のひとつになりそうだ。

(福井 友則)