マツダが約11年ぶりに復活させるロータリーエンジン(RE)。2023年内に欧州で発売するプラグインハイブリッド車(PHV)「MX―30eスカイアクティブR―EV」の発電用エンジンにREを採用する。マツダのブランドアイコンともいえるREの歴史を振り返り、未来を探る。
REは、三角形のローターが楕円形のハウジング内で回転し、その回転運動を動力源にする。回転に伴って三辺に接する三日月状のすき間は容積を変え、吸入、圧縮・点火、燃焼、排気の4工程を繰り返す。レシプロエンジンと比べ小型・軽量化で高出力化しやすいことが特徴だ。
マツダがREの開発を始めたのは1961年。当時はほとんどの自動車メーカーが研究開発していたが、「悪魔の爪痕」といわれるハウジング内壁とローターの頂点(アペックス)がこすれて生じるキズなど技術課題が多く、実用化は困難を極めた。
しかし、マツダは日本カーボンとカーボンアペックスシールを開発するなどし、耐久性の確保に成功。67年に発売した「コスモスポーツ」に搭載し、世界で唯一、REの実用化に成功した自動車メーカーとなった。その後は「ロータリゼーション」として搭載車種を一気に増やした。
マツダのブランドアイコンになったREだが、存続危機に見舞われてきた技術でもある。例えば、石油危機でガソリン節約の機運が高まった73年、米環境保護庁(EPA)はマツダのRE車の燃費を「通常のエンジン車より5割悪い」と発表した。「ガスガズラー(ガソリン大食い)」のレッテルを貼られ、在庫が一気に積み上がると、75年10月期にマツダの経常損益は173億円の赤字に転落した。
ただ、マツダがあきらめることはなかった。REの燃費を4割改善するために打ち出したプロジェクトの名前は「フェニックス計画」。熱交換器方式のアイデアなどで最終的には4割以上の改善を果たす。
その後、何度も存続の危機が訪れ、その度に乗り越えてきたが、2012年に排ガス規制の影響で市場から姿を消した。しかし、研究開発は止めなかった。そしてREがようやく蘇る。
新たに開発した「8C型」は排気量830ccのシングルローターエンジンだ。2300~4500回転/分と、性能の良い回転域のみ使用し、排ガス対策をしやすくした。小型だからスペースの条件が厳しくなりがちなPHVにも積みやすい。
エンジン自体も進化した。「RX―8」に搭載した「13B型レネシス」はポート噴射だったのに対し、8Cは直噴方式とし、圧縮比を10・0から11・9に向上。EGR(排ガス再循環システム)クーラーも採用し、エンジンの損失低減やノッキング(異常燃焼)も抑制した。アペックスシールは、幅を従来の2・0㍉㍍から2・5㍉㍍に広げて耐摩耗性を高めた。
一方、REのファンにとっては発電用ではなく駆動用エンジンとしての復活も期待されるところ。REを開発する技術者も「もちろん、駆動用として復活させる道もあきらめていない」という。REはノッキングを起こしにくく、水素や液化石油ガス(LPG)など幅広い燃料に対応できる特徴もあるだけに、カーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)を実現するエンジンとして復活する可能性もある。
5月27日、ル・マン24時間主催者のピエール・フィヨン会長は、26年から加わる「燃料電池車クラス」に水素エンジンの参加を認めることを富士スピードウェイで発表した。かつてREでル・マンを制したマツダの毛籠勝弘次期社長はいう。「いつかル・マンのサーキットを(REを積んだ)将来の車で走らせたい」。マツダの挑戦は続く。
(水鳥 友哉)