札幌で開催したG7環境大臣会合の様子

欧州連合(EU)が2035年以降も条件付きで内燃機関車の販売を認める方針を掲げ、先進7カ国(G7)気候・エネルギー・環境大臣会合では多様な選択肢で車両の脱炭素化を進めることが強調されるなど、従来の「電気自動車(EV)一辺倒」の傾向が弱まりつつある。補助金の打ち切りや電池材料の偏在など、EVの普及が本格化するにつれて鮮明化してきた課題も多い。各国とも自国の方針を踏まえつつ、現実的な解を模索し始めている。

EUは4月、合成燃料「eフューエル」を使用する場合に限り、35年以降も既存の内燃機関車の新車販売を認める方針を示した。内燃機関車の販売を打ち切るとしていた従来の宣言から大きな政策転換となる。大手自動車メーカーを自国産業に持つドイツなどの要望を踏まえてのことで、EVありきだった電動化の流れも徐々に変わってきた。

矢野経済研究所の調査によると、35年の四輪車の世界市場における電動車の比率は、最大で7割弱に膨らむとの予測だ。一方、EVが特定のセグメントや小型商用車など限定的にしか普及しないシナリオでは、4割程度に落ち着くとの予想も示した。EV販売の伸長自体は継続するが、「代替燃料や水素の活用によるカーボンニュートラル(温室効果ガス実質排出ゼロ)が進む」との見方だ。中国やドイツが相次いでEV購入補助金を打ち切り、縮小したことで買い控えが起きている。それに加え、EVに欠かせない電池材料の枯渇も要因と見られる。

EV用電池にはリチウムなどのレアメタルが多く使用されるが、埋蔵量には限りがあり、産出国も特定の地域に限られる。スマートフォン向けの需要も拡大しており、SOKENの古野志健男エグゼクティブフェローは、「今のままでは23年からリチウムが、25年からはコバルトがそれぞれ供給不足のフェーズに入る」と警鐘を鳴らす。各社のEV計画を達成するには30年には少なくとも世界で5千~6千ギガワット時の生産能力が必要になるが、「埋蔵量を考慮すると、30年の生産目標を達成するのは困難」(古野氏)との見方もある。

この見通しを受け、EV以外の可能性を残す動きも出始めた。先月開かれたG7環境大臣会合では、米国などがゼロエミッションビークル(ZEV)の目標設定を水面下で求めていたが、成果文書では「G7及びG7以外のメンバーが採る多様な道筋を認識する」と表記された。合成燃料とバイオ燃料の可能性にも言及し、ハイブリッド車(HV)も含めた内燃機関車を事実上容認した格好だ。

また米国が主導する有志国フォーラム「主要経済国フォーラム(MEF)」でも変化が見られた。昨年は米国が打ち上げた「30年にZEV50%の目標を共有すること」という呼びかけに対し、フランスやドイツなど9か国が賛同した。しかし今年はイタリアが宣言から離脱し、ドイツは目標達成にeフューエルの記載を加えるよう求めた。“EV派”と言われる欧州陣営も一枚岩ではないようだ。

EVの販売台数が伸び始めたことで、普及に向けたリスクや課題が顕在化しつつある。手札の取捨選択を間違えれば、将来の競争力に影響しかねない。