トヨタ自動車が実証都市「ウーブン・シティ」構想を発表してから3年が経った。現在、第1期エリアの建設が進んでいる。水素エネルギーなどで他業種との協業も見えてきた。5万平方㍍の敷地に360人が暮らす第1期エリアは2024年頃にオープンする予定だ。
この構想は、豊田章男社長が20年1月に米エレクトロニクス見本市「CES」で公表した。トヨタ自動車東日本・東富士工場(静岡県裾野市)跡地で工事が始まったのは翌21年2月のこと。整地などを経て22年10月からは本体建設工事に入った。「ウーブン(Woven)」とは「織り込まれた」「編み込まれた」という意味で、網の目のように道路が織り込まれ合う姿から命名された。
この実証都市は、完全自動運転車専用道を設置するなど街の生活インフラをゼロから設計する。豊田社長は当時、「自動車会社としては自動運転の開発スピードが上がる」と建設の狙いを説明する一方で、「クルマの概念が変わり、あらゆるサービスが情報でつながる。クルマを含めた街全体、社会全体という大きな視野で考える発想が必要だ」とも語っていた。最終的な規模は70万8千平方㍍と、東京ディズニーランドやユニバーサル・スタジオ・ジャパンの約1・5倍程度のエリアに約2千人が暮らす街になる。
現時点で他企業との連携は、スマートシティー関連でNTTとの協業をはじめ、ENEOS(エネオス)やリンナイと水素エネルギー利用についての実証を進めることが決まっている。トヨタ子会社「ウーブン・プラネット・ホールディングス」が開発した水素ポータブルカートリッジを導入するなど、まずは次世代エネルギーとして再注目される水素の利活用が実証都市のテーマとなりそうだ。
プロジェクトをけん引するウーブン・プラネットの豊田大輔シニアバイスプレジデントは「実証都市でモビリティの拡充を模索する」と語る。先進技術やサービスを実証するに当たり、トヨタが都市に誘致したいのが発明家だという。発明家のアイデアをフィードバックできる体制を整え、都市という〝リアル空間〟にすぐさま実装することで開発スピードを上げる狙いがある。
豊田シニアバイスプレジデントは、インターネットが単なる情報収集ツールから電子商取引やSNS(交流サイト)など新たな付加価値を生み出していることを例に挙げ、「モビリティも単なる『クルマ』や『交通』から、他分野を結び付けることで新たなイノベーションへと拡充する」と期待を込める。日清食品と「食の健康」の実証も検討しており、従来のクルマ業界に捉われない協業の広がりをもたらしそうだ。
トヨタ自ら「未完成の街」を標榜する実証都市は、プロジェクト自体のゴールをあえて掲げず、「人」「モノ」「情報」のモビリティ(移動)を拡張して新たなサービスを模索し続ける。
(福井 友則)