既存メーカーも追撃。一方で難しさも露呈

 新興勢力の台頭に、既存の自動車メーカーも「指をくわえて見ている状況ではない」(自動車メーカー首脳)。インドのタタ自動車は価格を抑えた新型EV「ティアゴ」を1月からアジア各市場に投入する。テスラや現代自動車もアジアで、EVの開発・生産体制を拡充する方針を打ち出している。ガソリン車ではASEAN市場で高いシェアを持つトヨタ自動車は、タイに将来の現地生産も想定してEV「bZ4X」を投入した。タイで人気のピックアップトラックタイプのEVの現地生産も検討している。

 ゼネラル・モーターズ(GM)は、大型ボディーが好まれる米国市場に対応して大型EVを相次いで投入し、まず母国市場でEVシェアトップのテスラを追撃する姿勢を鮮明にしている。フォルクスワーゲン(VW)は、EV専用プラットフォーム「MEB」を活用して、新型EVを矢継ぎ早に投入、中国、欧米市場で巻き返しを図っている。しかし、急激なEVシフトによる雇用削減の懸念から、従業員が反発したことなどからCEOが交代した。内燃機関を中心とする自動車メーカーがEV時代に適した体制にシフトする難しさを露呈した。

 EVシフトは、既存の自動車メーカーのアライアンスにも大きな影響を及ぼしている。日産はアライアンスを組むルノー、三菱自動車とEV戦略を推進してきたが、欧州市場のEV対応を迫られたルノーがEV事業を分社化する事業構造改革を決定した。ルノーは日産にもEV新会社に出資するよう要請しており、アライアンスの枠組みを見直す動きにまで発展している。

異業種も巻き込んで

 ホンダはGMからEVをOEM(相手先ブランドによる生産)車として供給を受ける計画だが、それとは別に、異業種であるソニーとEVを生産・販売する合弁会社を発足した。自動車メーカーだけでは想定できないサービスを採り入れたEVを25年に市場投入する計画だ。

 メルセデス・ベンツも、新興の力を生かしてEV関連事業を強化するため、22年9月に商用車部門が米EVメーカーのリビアンと電動大型バンを東欧で生産する工場を、5年以内に新設することで合意した。ただ、12月に入ってから、リビアンがEV事業の立て直しを優先するため、合弁工場を新設する計画を一時取り止め、メルセデス・ベンツの既存の工場を活用して共同運営する計画に内容を変更している。

 今後の台風の目となりそうなのが台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業だ。EV専用プラットフォームを開発し、これを活用したEVを23年後半に市場投入するのに加え、EV専用プラットフォームを活用したEVの受託生産事業の展開を視野に入れる。すでに米国やタイで現地生産体制を整えている。そしてホンハイと関係が深く、EV市場参入に向けた準備を着々と進めている米アップルの動向も気になる。テックカンパニーの巨人であるアップルのEV市場参入は、ソニーとともに、自動車業界に新たな風を吹き込むことが期待されている。

 市場が拡大しているEVをめぐって、中国やベトナム、米国の新興勢力やIT大手、そして既存の自動車メーカーが入り乱れての戦いがグローバルで繰り広げられている。ホンダの創業者である故本田宗一郎氏は、かつて米国の環境規制強化で開発競争が激化していたのを受けて「『戦国時代』に遭遇できたのは恵まれた。最後発のホンダが飛躍するきっかけになった」と語った。EVという新しい市場の覇権をめぐる争いの戦端の幕は切って落とされた。