ギグワーカーも法令順守や安全運行への意識が問われる

 宅配貨物などの急拡大を背景に解禁された軽乗用車による貨物運送は、運賃水準の下落や事故増加などの懸念をはらむ。副業として荷物を運ぶ「ギグワーカードライバー」の増加が予想されるためだ。運送事業を所管する国土交通省は、法令順守や安全管理の徹底を改めて貨物軽自動車運送事業者に求める方針だ。狙いどおりドライバー不足の緩和につながるか。

 国交省は、貨物軽自動車運送事業に軽乗用車の使用を認める通達を10月24日に出し、27日から施行した。以前は、貨物軽自動車運送事業に使用できる車両は最大積載量の記載がある軽商用車しか認めていなかった。最大積載重量を確保するために必要だった後部座席の取り外しに伴う国への構造変更の申請と車両検査も不要になった。

 規制緩和の背景には、電子商取引(EC)やフードデリバリーなどによる宅配需要の急拡大がある。個人業務委託配達員を抱えるフードデリバリー業界からは、雪の降る時期に二輪車や自転車での配送が難しいことから「使用できる軽自動車の種類を増やしてほしい」との要望が寄せられていた。自家用の軽乗用車が使えれば、わざわざ軽商用車を購入する必要もなくなる。

 政府内の規制改革推進会議で議論が始まったのは今年4月のことだ。6月上旬には軽乗用車の使用を認めることを盛り込んだ「規制改革実施計画」が閣議決定される。これを受けて国交省は8~9月にパブリックコメント(意見募集)を行った後、10月27日に規制緩和に踏み切った。議論の開始からほぼ半年で実現にこぎつけた格好だ。

 国交省によると、2021年度の宅配便の取扱個数は過去最高の約49億5千万個。貨物軽自動車運送事業用として届け出されている車両台数も増え、30万台に迫る勢い(21年3月末で約28万8千台)だ。国交省は規制緩和を通じ、ドライバーや車両不足の緩和を期待する。

 ただ、軽乗用車の使用届け出が今後どれだけ見込まれるのかは「未知数」(自動車局関係者)という。そもそも、乗用車は大量の荷物を積むことを想定しておらず、配送用として使うには効率が悪いからだ。貨物軽自動車運送事業として軽乗用車が積める重量は、乗車定員数から乗車人数を引いた数に55㌔㌘を乗じた重量が上限だ。ドライバー1人で使う場合は最大165㌔㌘。道路交通法で定められた軽商用車の最大積載量(350㌔㌘)の半分以下となる。このため、既存の貨物運送事業者が軽乗用車を新たに購入することは考えにくい。

 主に想定されるのは、二輪車などを利用していたフードデリバリーの配達員が軽乗用車も使うようになることだ。コロナ禍で本業の収入が減ったギグワーカーに加え、身近な起業手段として貨物軽自動車運送事業の個人事業主も急増している。宅配貨物を個人事業主に直接委託するマッチングシステムもこうした働き方を後押しする。

 一方、車両やドライバーの需給とともに運賃が変動することは避けられず、地域によっては運賃水準が切り下がる懸念もある。また、長時間労働や事故時の保障問題など、物流業界が以前から抱える問題が広がる可能性もある。

 自家用軽乗用車を使用する場合でも、使用の本拠地(営業所の住所)を管轄する運輸支局に貨物軽自動車運送事業の経営届け出を行い、軽自動車検査協会で事業用ナンバープレートの発行を受ける必要がある。また、車両の側面などに事業者やサービスの名称、氏名を表示しなくてはならない。当然ながら、適切な車両の保守管理や安全運行も求められる。

 しかし、これらを軽視するドライバーが増えると、結果として貨物運送事業者が絡む事故が増えかねない。国交省は、貨物軽自動車運送事業者に関連法令を改めて周知するとともに、過労運転や過積載の防止、点検整備による安全確保、運行管理の適正化などを指導していく方針だ。

(平野 淳)