女性の採用と育成に積極的に取り組む
新井 典仁代表取締役

 タカバン(新井典仁代表取締役、岐阜県高山市)は将来を見据え、水性塗料など身体に優しい材料の導入やデジタルツールの活用により、若手の人材確保と育成に取り組む。女性の業界進出も促進し、性別に関係のない誰もが活躍できる職場環境を提供する。

 女性の業界進出が、人材不足の解決に貢献すると気付いたのは、未経験の若手女性を採用したことがきっかけだった。同社では、従業員の平均年齢が上がっていく一方で、育成する人材が不在で、板金塗装(BP)業の将来に不安を抱いていた。雇用の確保では、技能実習生などの外国人に頼る選択肢もある。一方で、「ビザの関係で雇用期間が短期だったり、地域や会社へのこだわりが乏しかったりで、条件次第によってはすぐに転職してしまうという実情もある」(新井社長)と人材定着の難しさを語る。その中で、BP職の求人に女性から応募があった。従業員の健康を考慮し、水性塗料などをすでに導入していたため、初めて女性の採用に踏み切った。

 実際に女性が工場で働き始めると、作業場が以前に比べて整理整頓が行き届くようになり、社員間に意識の変化が見られた。また、BPの作業工程でも塗装作業は、繊細な色彩感覚が必要なため、視覚能力が男性と比較して優れていると言われる女性には特に適していると感じたという。さらに、入庫客からも、女性がいることで安心感や親近感が生まれ、女性客の来店も増加した。

 同社では人材の確保と育成のために、事業基盤の整備も重要視した。ホームページやチラシ、地元のフリーペーパーでの宣伝、SNSでの発信にも注力し、現在では直需が入庫の大半を占めるようになった。

 一方、現場では業務の効率化に向けて、調色作業を平準化する調色システムなどのデジタルツールの活用を積極的に進めた。また、メッセージアプリを利用して従業員と無理のない目標設定を毎日行うことで、業務にメリハリが生まれ、生産性向上と残業時間の大幅削減も実現した。

 半世紀前、自動車に関わる仕事は当時の若者の憧れであった。男性中心の仕事であるとのイメージがいまだに強い中で、同社は性差に関係なく活躍できる環境の提供により、BP業界のイメージアップと社会的地位向上を目指す考えだ。これにより「若者たちが自動車業界や整備業界に戻ってきてくれるのでは」(同)と今後に期待を込める。

 〈受賞者コメント〉

 新井 典仁代表取締役

 受賞は大変ありがたく、うれしく思う。目立った取り組みを行っている事業者の露出の機会が増えることは、整備事業者全体のモチベーションアップにもつながる。女性の業界進出を切り口とした人材確保、育成の形が自動車補修業界の課題解決につながることを示せれば幸いだ。

(下岸 可憐)