全固体電池の開発競争が激化

 全固体電池の開発をめぐっては、次世代EVのキーデバイスとなるだけに世界中の自動車メーカーや電池メーカーが開発に本腰を入れている。トヨタ自動車は20年代前半に全固体電池を実用化する計画だが、搭載するモデルはハイブリッド車となることを公表しており、容量は小さいとみられる。

 ホンダは20年代後半に全固体電池の実用化に向けて、研究開発を進めている。負極材に高容量材を採用する方針で、現在、セルの仕様と生産プロセスの開発を進めている。年内にパイロットラインで電極材料を混錬する製造プロセスを立ち上げる計画だ。24年春には約430億円を投じて、栃木県さくら市に生産プロセスを含めた設計に取り組める実証ラインを立ち上げ、20年代後半のEVに搭載する計画。ホンダの全固体電池の本格的なEVへの搭載は30~32年ごろになる見通し。

 海外の自動車メーカーも取り組みが本格化している。EVラインアップを拡充しているフォルクスワーゲン(VW)グループは、米国電池メーカーのクアンタムスケープとの協業で24年に全固体電池の商業生産を開始し、25年以降、搭載したEVを市販する計画だ。ステランティスは全固体電池ベンチャーのファクトリー・エナジーと全固体電池を共同開発し、26年までに実用化する。ファクトリー・エナジーはメルセデス・ベンツとも協業しており、両社は早ければ年内にも全固体電池を搭載したEVの走行テストを実施する。

 さらに、中国の上海蔚来汽車(NIO)は半固体の電解質を使用するハイブリッド固体電池を搭載したEVを年内に市販する予定。中国の電池メーカーの寧徳時代新能源科技(CATL)や比亜迪(BYD)も全固体電池の実用化に向けて研究開発を本格化しており、開発競争は激化している。

 リチウムイオン電池を発明したのは19年にノーベル化学賞を受賞した吉野彰氏で、91年にリチウムイオン電池を世界で初めて商品化したのはソニーだった。こうしたこともあってリチウムイオン二次電池の初期は日系企業が市場シェア50%程度を握っていたが、11年ごろから韓国系、その後、中国系が台頭してきた。車載向けでは長らくパナソニックが世界シェアトップで、16年には35%もあった。それが現在はCATLがトップ、2位がLGエナジーソリューションで、パナソニックは3位に転落するなど、二次電池での日系企業の地盤沈下は鮮明だ。これは日本の自動車メーカーがEVで出遅れたことと無縁ではない。中国の地場自動車メーカーは、EVの世界市場で高いシェアを持ち、中国系電池メーカーとともに、さらに攻勢を強めている。

 ここにきてEVの拡充を相次いで打ち出している日本の自動車メーカー。電解液のリチウムイオン電池の轍を踏まず、次世代電池の本命とされる全固体電池の開発で世界に先行できるかは、日本の自動車メーカーが次世代EVの時代に存在感を示すことができるかの最後のチャンスになるかもしれない。

(編集委員 野元政宏)